Japanese
English
増大特集 顔認知の脳内機構
序―特集の目的
Introduction
柿木 隆介
1,2
Ryusuke Kakigi
1,2
1自然科学研究機構生理学研究所統合生理研究系
2総合研究大学院大学生理科学専攻
1Department of Integrative Physiology,National Institute for Physiological Sciences
pp.715-716
発行日 2012年7月1日
Published Date 2012/7/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416101232
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Ⅰ.特集の目的
近年,心理学,脳科学,基礎医学,臨床医学,工学,情報学などの幅広い分野で,「顔認知機能」の研究が非常に盛んになってきた。顔認知は言語認知と並んで,人間が社会生活を送るうえで最も重要な機能と考えられるようになってきたからである。人間の乳幼小児期においては,母親の顔を他のものと区別することは生存上,最も重要な機能の1つであろう。これは人間のみならず動物が生まれつき持っており,かつ生存するために不可欠の能力と考えられる。成長するにつれて,親だけではなくさまざまな「顔」に関する認知過程の発達と成熟は社会的生存においてきわめて重要となってくる。特に人間にとっては「社会的コミュニケーション」を取る手段としての意義が大きい。顔認知が他の一般的な物の認知と明らかに異なっている点の1つとして,例えば「丸いものが2つあると目に見えてしまう」というように,あるパターンを見るとそこに顔を見出すという特殊な認知過程の存在が考えられる。
実際,顔認知機能の障害は社会生活に歪みをきたすだけでなく,教育現場においてもさまざまな問題を生じている可能性がある。特に自閉症の子どもたちや,引きこもりなどの状況に陥る学童での顔認知機能の障害の可能性が指摘されている。また,ゲームなどに多くの時間を費やし,対人関係にかける時間がだんだん短くなっている現代の子どもたちにおける顔認知機能の発達障害,例えば相手の表情から気持ちをうかがい知る能力の低下,などの可能性も重要な問題となりつつある。
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