書評
「《神経心理学コレクション》脳を繙く 歴史でみる認知神経科学」―M. R. Bennett,P. M. S. Hacker●著 河村 満●訳 山鳥 重,河村 満,池田 学●シリーズ編集
酒井 邦嘉
1
1東大大学院・言語脳科学
pp.1100
発行日 2011年10月1日
Published Date 2011/10/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1416101039
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型破りな脳科学の入門書である。本の帯には,「脳研究の常識への挑戦状!」とある。確かに,原題の“History of Cognitive Neuroscience”(認知神経科学の歴史)からは想像もつかない,過激な本であると私も思う。それゆえ,類書にない面白さがこの本にはある。同時に,本気で自分の脳を使って,脳という奥深い書物を「繙く(ひもとく)」ことを読者に強要せずにはいられない本でもある。一読をお勧めしたい。
本書の構想は,「脳科学全体にわたる主要な研究を網羅的に取り上げ,整理し,研究内容を歴史的に位置付け,批判的に考察する」というものである。その一方で,ちまたではちょっと不思議にも思えるくらいもてはやされてきた用語である「ワーキング・メモリー(作動記憶)」に関してはたった1カ所,「ミラー・ニューロン」に至ってはまったく記述や議論がみられない。どちらの概念に対しても,特に言語への安易な適用に対して常に懐疑的な私には,むしろこれは適切な判断であると言えるのであるが,もしもこれらの点について徹底的に議論してもらえたら,盲信されている概念に対する多くの誤解が解けたことであろう。
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