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はじめに
生命は本来自然との一体性の上に成り立つもので,複雑な環境を「しなやか」でかつ「したたか」に生きていくには「自らを制御する情報を自らが創る」という自律性が本質的に重要である。なぜなら,自然との一体性の上に立つ自律性こそが,生命の多様性を生んだと言えるからである。生命システムをとりまく環境は通常複雑な時空間構造を持ち,かつその変化はダイナミックで予測不可能的に変化する。この環境の無限定性に適応する機能が,実世界における生命システムの認識や制御であり,生存にとって本質的役割を果たしている。
ところが,近年,高齢化社会への移行に伴う認知症やパーキンソン病などの適応障害患者の増加は大きな社会問題となってきた。これらの適応障害は神経機能や運動機能の低下によって引き起こされるが,これらの疾患の診断法や治療法は必ずしも確立されているとは言えない。適応障害は間脳までのいわゆる生存脳と言われる領野が大きく関係している疾患であり,これは自己と環境の関係が適切に作れなくなっている疾患である。生存脳(古い脳)と大脳皮質(新しい脳)の相互作用で高次機能が発現するが,アルツハイマー病,パーキンソン病,自閉症などは相互依存関係がうまく機能しなくなっている疾患であることが知られている。特にほう腺核,黒色網様体,青斑核など,セロトニン,ドーパミン,アセチルコリンなどを分泌する古い脳の領野が個体と環境との意味的関係性を表す実体だと思われているが,それらの分泌量だけを測定しても必ずしも疾患との対応関係は明確にはならない。このことからわかるように,医学の伝統的な方法論である分析的手法と,適応的姿勢-運動連関の臨床学的な解析による知見を積み上げる研究だけでは適応障害の解明には不十分なのである。
脳-身体-環境の相互作用によって適応的な運動機能が発現するので,三者を統合的に研究する必要がある。しかしながら,それを行うには大きな課題が存在する。医学的には,実環境で発現するさまざまな疾患を生理学的,臨床学的に分類することが不可欠であろう。しかし,医学的疾患を分類することも大変な困難を伴う。脳は非線形の複雑系なので,必ずしも原因と結果が1対1対応をしない。また,脳の機能が局在していないことからくる複雑性がある。脳の複数の部位が関与して現れる疾患の場合,原因を1つに決めることはできない。このことはこれまでの科学がやってきた要素還元論とは大きく異なる点である。さらに,このことは身体機能障害にも当てはまる。身体機能障害も身体のどの部分に原因があるとは言えても,それによって疾患がすべて特定されるわけではない。神経機能と身体機能の相互作用によって表向きに出てくる症状は大きく異なる。加えてやっかいなことは,これに環境の複雑性が絡んでくることである。適応とは与えられた環境に適合することなので,環境が異なれば適応の仕方も変わる。したがって,脳-身体-環境の相互作用による適応機能という場合はこれまでの科学の方法論だけでは十分に対応しきれないのである。
このような非線形で複雑な現象である適応障害のような場合には,構成論的な方法論が現象の解明に有用な場合が多い。なぜなら,非線形の複雑な現象は,精度のよいモデルを作って,それを構成する要素に異常があるときにどのような現象が現れるかがわかるためである。つまり,脳-身体-環境の三者のさまざまな要因が複雑に相互作用して現れる複雑な現象は,構成論的に作り上げた精度のよいシミュレータを用いることで初めて明らかになることが期待できる。しかし,精度のよいシミュレータの構築はそれ自身困難な問題をかかえているのである。
Abstract
Modern science has been developed through concept of subject-object separation. That is, nature has been cordoned off from human beings and objectified. We have attempted to discover ideal world laws wherein we can consider nature as homogeneous. The real world, however, is by far more complicated than what natural sciences have so far been able to decipher. There are many problems that cannot be effectively addressed with the existing scientific technology. Because the real world is so unpredictable and dynamic, it is impossible to objectify it in advance and apply traditional methodology. This real world problem arises especially in information processing systems, that is, the recognition and the motion control systems coping with the real world. The current information systems can only handle explicit and complete information.
Life is an intrinsic part of nature. To be both pliant and sturdy in a complex environment requires autonomy capable of creating the information needed to control the self. It forms the premise for the cognizance and control of life systems that exist in reality. To “live,” a life system must independently forge a harmonious relationship with an unlimited environment. It requires that the life system be capable of creating the information necessary for self-control. It is this autonomy that clearly distinguishes the world of life systems from the physical world. Here,we will show an example of adaptive bipedal walking under an indefinite environment.
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