書評
―岩田 誠,河村 満 編―《脳とソシアル》―脳とアート―感覚と表現の脳科学
佐伯 胖
1
1東京大学
pp.490
発行日 2013年5月15日
Published Date 2013/5/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405102456
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本書の「発刊に寄せて」にあるように,脳科学がこれまで中心的に扱ってきたテーマは,いわば「正解」のある課題を与えての「反応」を測定・評価するというものであったが,「感じること」「表現すること」をテーマにするということは,個人の内面にかかわっており,外的基準による「正解」のない活動に焦点を当てることになる。このような「新しい」研究領域を拓く際には,伝統的な脳科学・神経科学を超えて,他領域との交流が必要となるわけで,本書も,脳科学・神経科学の専門家ばかりではなく,知覚心理学や感性心理学の専門家,発達心理学者,健康科学の専門家,ロボット工学者,システム科学者らも執筆陣に加わっており,そのような他領域との交流からの新しい研究領域を拓こうという意気込みが感じられる構成となっている。
本書の章立てを見ると,色彩感覚,「香り」や「味覚」,音楽,絵画,さらには「遊び」など,まさに,「正解」のない活動を中心テーマに掲げているのだが,これらのテーマの下で実際に探求されていることのほとんどが,「特定の課題を与えたときに,脳のどの部位が活性化するか」,「脳のどの部位に障害があると,どういう“歪められた”行動が発現するか」という,まさに伝統的脳科学のパラダイムの中での「原因追及型」の研究がほとんどである。これは脳科学・神経科学は伝統的に「局在論」の立場から,「○○という反応が生まれるのは,脳のどこが活性化することによるか」を分析的に解明するというのがメインストリームの研究であって「それ以外のやり方が考えつかない」のかもしれない。
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