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はじめに
精神疾患とは,アルツハイマー病などを含む老年期痴呆性疾患から,成人発症の統合失調症や気分障害,さらには小児の精神疾患(自閉症,アスペルガー症候群)などを幅広く含む疾患概念であるが,その多くの病因には脳の発達異常が関わることが示唆されている。小児精神疾患における脳の発達異常の関与は自明に思われるが,統合失調症などの成人発症の精神疾患においても,遺伝負因という観点でのハイリスク児童の研究などを通して,病因の少なくとも重要な部分には脳の発達異常が関わることが強く示唆されている。家族性アルツハイマー病の責任遺伝因子であるamyloid precursor protein(APP)の,神経発達期の神経遊走での機能はアルツハイマー病研究でもホットトピックであり,老年期痴呆性疾患においてもその背景に一部の神経発達をリスクの起因に求めようとする流れすらある。したがって,広く精神疾患の病態生理を考えていくうえで,脳の発達異常というのは看過できない概念となってきている。本論では誌面の限界もあるので,自閉症と統合失調症に力点をおいて,脳の発達異常との関わりについて述べる。
さて,脳の発達異常の関与を精神疾患で考えるうえで,念頭におくべき技術的問題が2つある。1つめはヒト組織を用いる際の研究での問題であり,2つめは動物モデル作成の際の問題である。ヒト組織の利用は病態生理研究に必須であるが,癌や糖尿病などの研究と異なり,精神疾患においては生検によってヒトの病変組織(脳)を得ることが難しく,剖検脳の利用が主となる。しかし,剖検脳を用いた研究には結果を解釈する際に大きな問題点がある。患者死亡時は発症時期から年月を経ているケースが多く,実際の発症時点での病理変化は反映されていないかもしれない。ましてや神経発達期に形成されると推定される病因の根本を,剖検脳からたどることは本当に可能だろうか。また精神疾患患者が受ける長期にわたる投薬治療は脳に二次的な変化をもたらし,剖検脳における病理変化を修飾する可能性が高い。したがって,疫学などさまざまなラインの研究が神経発達の異常と精神疾患の因果関係を強く示唆していても,ヒトの脳病理組織から得られる直接的な証拠には限界があることを認識しておく必要がある。こうしたヒト組織を用いた研究の難しさを補てんする意味では,動物モデルに期待する向きもあろう。しかし,多くの精神疾患は単一の遺伝子異常によって病気が生じるのではなく,おそらくは多数の遺伝子と環境因子の相互作用によって病気が起こるため,単純なノックアウトマウスやトランスジェニックマウスの解析は,多くの場合,精神疾患の動物モデルとしては不適切である可能性があることには注意をはらうべきであろう。これは動物モデルの重要性を否定するものではなく,脳の発達異常がいかに時間経過とともに病態を形成していくかということを調べるうえでは動物モデルが必須であることはもちろんであるが,研究デザインと解釈に相当な工夫が必要であるということを意味している。
こうした一般論をベースとして,次に自閉症と統合失調症について述べる。
Abstract
Neurodevelopmental disturbance may underlie the pathogenesis of major mental disorders, including autism and schizophrenia, based on evidence in epidemiology, clinical psychiatry, brain imaging, and neuropathology. This notion is further supported by the fact that many of genetic susceptibility factors for these disorders have key roles in neurodevelopment. Majority of these genetic factors, such as Neuroligins, SHANK3, Neureglin-1, Dysbindin, and Disrupted-in-Schizophrenia-1 (DISC1) are associated with "synapse." Therefore, "synapse" is one of the most promising sites of convergence in regard to molecular pathways for these mental conditions. In this review, we will summarize the updates of schizophrenia and autism research, with an emphasis on neurodevelopmental disturbances.
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