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Case
ふらつき,低血圧を主訴として来院し,MSA-Cと考えられた1例
患者:60歳,男性.
主訴:起立時,歩行時のふらつき.
高血圧で近医通院中であった.降圧薬としてアンギオテンシン受容体拮抗薬を内服していた.起立時にふらつきが出現するとのことで,血圧を測ったところ,低血圧であったので降圧薬を中止された.しかし,起立時のふらつきが改善せず,近くの脳神経外科を受診しMRIを撮影したが,異常は認めなかった.ふらつきはさらに進行し,臥位時には血圧が高く,座位・起立時の血圧が低いということで,症状出現から4カ月後に紹介受診となった.認知機能障害は認めない.
既往歴:高血圧.内服治療していたが,中止した.
喫煙:20本/日×40年.
飲酒:ビール4,5本と焼酎4,5杯/日×30年間.
受診時身体所見:臥位;血圧160/90mmHg,脈拍72/min.立位;血圧80/54mmHg,脈拍76/min.
四肢筋力低下なし,筋トーヌス正常,振戦なし.Myerson徴候陰性.
心エコー:軽度の左室肥大を認めるのみ.ACTH,コルチゾル値正常.甲状腺機能正常.HbA1c 5.5%.
受診当初は自力歩行も可能であり,日常生活に支障は出なかったが,次第にふらつきが進行,指鼻試験が稚拙になるなど小脳症状も出現してきており,MIBGでのH/M比が1.69と軽度低下していたため,自律神経障害を伴う疾患,とりわけパーキンソン病,多系統萎縮症(MSA)などの鑑別が必要と考え,大学病院神経内科へ紹介した.この頃には排尿障害を認め,便秘傾向にもあった.
大学病院入院時身体所見:血圧;座位 120/70mmHg,立位 80/52mmHg.
歩行wide based gait,体幹失調あり,Romberg徴候陰性.瞳孔不同なし,対光反射正常,顔面筋異常なし,顔面感覚異常なし,四肢筋力低下なし,筋トーヌス正常,指鼻試験decomposed and dysmetria+,Schellongテストで30mmHg以上の収縮期血圧の低下を認めるが,代償性脈拍増加は認めず.
入院後検査で,結核を含めた感染症は否定され,髄液には有意な異常を認めず,各種自己抗体も陰性,造影CT,ガリウムシンチグラフィーでの腫瘍検索も異常を認めなかった.
脊髄小脳変性症,アルコール性小脳失調症,アミロイド・ニューロパチーなどの可能性も残るが,60歳で発症し,1年程度の経過で比較的早期に進行する自律神経障害と小脳運動失調を認めることから,MSA-Cの可能性が最も高いと考えられ,経過を追いながら治療を行うこととなった.
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