特集 ジェネラリストのためのクリニカル・パール
【総論】
クリニカル・パールの心的効果―言語学のコミュニケーション理論による説明
新井 恭子
1
1東洋大学経営学部
キーワード:
推論モデル
,
関連性理論
,
認知効果
,
想定
,
処理労力
,
心的効果
,
詩的効果
Keyword:
推論モデル
,
関連性理論
,
認知効果
,
想定
,
処理労力
,
心的効果
,
詩的効果
pp.566-570
発行日 2012年8月15日
Published Date 2012/8/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414102564
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人間はなぜ言葉でわかり合えるのか
言語学におけるコミュニケーションの研究は,つい40年ほど前まで,コードモデルというものを使って,「人間は言葉という記号を送り,受け手は記号を解読することでコミュニケーションが成り立つ」という説明を行っていた.しかし,言語哲学者のポール・グライスが,推論モデルを提案してから,言語学におけるコミュニケーションの研究が大きく変わった.推論モデルでは,人間のコミュニケーションは,推論能力が大きな役割を果たしていると考え,「話し手が不完全な文を話しても,遠回しな言い方をしても,聞き手には話し手の伝えたいことが伝わるのはそのためだ」と説明した.
たとえば,医師が患者に「水分をなるべくたくさん摂ってください」と言った時,「1日バケツ10杯分を飲みなさい」と言っているとは誰も思わない.医師は「病気になる前より多く飲みなさい」,または「通常より多く飲みなさい」と伝えたいのだと誰にでもわかる.また,水分について,はっきりと言わなくても,飲むものは酒やビールのようなアルコール飲料ではなく,水かスポーツ飲料などを指していることも患者には伝わる.これは,医師が言った「水分を摂る」を「水などを飲む」と解釈し,「なるべくたくさん」という表現を「通常より多いくらいの量」と推論することで,患者は医師の「伝えたいこと」を理解することができるのである.
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