構造と診断 ゼロからの診断学・11
自らの検査前確率をリッチにする その1
岩田 健太郎
1
1神戸大学医学部感染症内科
pp.142-146
発行日 2011年2月15日
Published Date 2011/2/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1414102109
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検査前確率はブラックボックス
■検査前確率はブラックボックスである.当然,検査前確率が増えたり減ったりすると,検査後確率が変わる.だから検査前確率は大切な入力アイテムなのだが,ここがなんとも心許ない.
■検査前確率の正確さは医師によって異なる.同じ検査をする分でも,検査前確率が異なれば結果の解釈は異なる.「この胸痛」はある医師には「たいしたことがない胸痛」であり,ある医師にとっては「恐ろしい胸痛」である.経験値の少ない研修医の場合,最初は「なんでもない胸痛」も過大に見積もり,あれやこれや恐ろしい病気ばかりを考えてしまう.「ちょっとだけ経験のある研修医」(3年目くらい)になると,逆に中途半端にコモンな病気を診てしまい,かといって十分なほどの「怖い経験」をしていないためにうっかりの見逃しが増える(ような気がする).思うに,そういう意味では1年目の医師よりも3年目の医師のほうが恐ろしいことが多い.3年目の過ごし方が,ある医師の運命の分かれ道である.前にも言ったが(連載第8回),「コモンな病気を診ることができる」とは,「恐ろしいまれな病気」にさらされて健全な免疫をつけ,地雷を踏まない能力があってはじめて担保されるのである.
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