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ここは,内科外来診察室である.定期受診の患者さんに混じって新患の患者さんも来院する外来(中小病院によくあるシステム)である.患者層,疾患の幅は広い.何か見落としがないか,毎日がスリリングである.ある日のM医師の外来をのぞいてみよう.
帰してはいけない(いけなかった)患者
●初診時の様子
患者:88歳,女性,要介護4,ほぼ寝たきり,食事以外は全介助.
主訴:嘔吐,下痢,腹痛.
現病歴:昨日,就寝時に少量の嘔吐(吐物は食物残渣)があり,腹痛を訴えていた.発熱はなく,「見た目はいつもとそれほど変わらなかった」と自宅で主に介護している嫁の話.本日,朝食は食べさせずに来院.お茶など水分は摂っている.今朝,少量の下痢あり.周囲で同じ症状の者はいない.食事は野菜の煮物,煮魚,おかゆなど,この2,3日で生ものは食べていない.上気道症状なし.胸部症状なし.
既往歴:脳梗塞後遺症(5年前に右脳血栓症発症),高血圧症.
内服薬:アスピリン,カルシウムブロッカー.
ADL:左麻痺,ほぼ寝たきりで,食事は自力で摂取できるがその他は介助が必要.簡単な会話は可能.排泄はオムツ,下肢の廃用が進んで歩行はできない.移動は車椅子.
社会歴:長男夫婦との3人暮らし.
身体所見:血圧130/80mmHg,脈拍96/分,呼吸数14/分,体温36.4℃.
意識レベル:グラスゴーコーマスケールE4V4M6.
M医師が自己紹介すると,笑顔で返してくれる.見た目は元気そう.患者さんを車椅子に座らせたまま診察したところ,心音,呼吸音で異常を認めず.腸音はやや亢進.腹部は軟,診察時に圧痛は明らかでない.うまくコミュニケーションがとれず,腹痛の有無ははっきりしない.家族の希望(「点滴すればよくなると思って連れてきました」)もあり,開始液を200mlのみ輸液,翌日の受診と症状悪化時の救急受診を説明し,帰宅していただいた.
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