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【症例】
24歳の女性が全身倦怠感を主訴に受診した.「とにかく1日中しんどい」と語る.ここ3年間ぐらい,何かするとすぐしんどくなって何もできない.仕事もかろうじてしていたが,退職することにしたという.他には症状はない.快活な印象の女性で,憂鬱気分はなく,仕事は倦怠感が強いだけでこなせていたという.とくに職場のストレスも強くなく,睡眠は良好であった.身体診察,検査所見も異常はなく,睡眠時無呼吸症候群を示唆する所見もなかった.
慢性疲労症候群やこの基準を満たさない特発性慢性疲労症1)を鑑別診断として考慮したが,この病名については患者に語らなかった.精神科では身体化障害が疑われた.過剰な安静の悪影響を考慮し,少しずつ運動をしつつ活動度を上げるよう提案した.その後,本人は自分でインターネットで調べて慢性疲労症候群ではないかと考え,この疾患を専門に診療する某大学病院を受診した.そこで慢性疲労症候群と診断され,漢方薬を処方されたという.
前回,診断の過程で重要疾患の可能性を除外することについて尾藤先生に触れていただいた.今回は,患者さんに「あなたの病気は……です」と病名を語ることについて考えてみたい.とくに問題にしたいのは,疾患概念の必ずしも明確でない場合である.たとえば慢性疲労症候群,線維筋痛症,身体化障害や,身体症状はあるが器質的疾患はなく既存の疾患の診断基準を満たさない場合である.一部の病名は医療従事者間のコミュニケーションには有用だが,患者との間では必ずしもそうでない.医師はこのような時に,ある病名を患者と交わしたり,また特定の病名を語るのをあえて控えたりする.その影響はどのようなものであろうか? 「あなたの症状の原因は不明です」としておくことと,「あなたの疾患は,詳細不明の……症候群です」と話すことでは,どちらがよいのだろうか?
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