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皮膚科医歴も30年以上となり,臨床・病理診断も少しずつ,らせん階段を上るように実力がつき,自信をもって診断できる症例が増えてきた今日この頃ですが,いまだに診断が難しい症例も多く存在します.皮膚症状の診察から,他臓器の合併症や既往歴,検査所見を探ることで,隠れた全身疾患を診断することもしばしば経験するようになりました.皮膚科は,感染症,膠原病,自己免疫性疾患,悪性腫瘍,良性腫瘍,物理・化学的障害,血管炎,好中球性皮膚症,自己炎症性疾患など,多くの分野を包含する診療科です.専門分野に分化していないので,プリミティブな側面もありますが,逆に多くの領域を診療の対象としているため,視野を広く保つことができ,また,ともすると診療科と診療科の狭間に落ち込んで診断不能になってしまっている症例を拾い上げることが可能です.一般的には,特定の疾患に対して定型的な保険診療を行うことが医師の仕事ですが,広範な領域を対象としている皮膚科においては,定型が当てはまらないような症例をしばしば経験します.このような症例を深く掘り下げることで,非定型症例の病態のみならず,定型症例の病態についての新知見を得ることもできます.皮膚科の良い点を挙げるなら,このように,日常診療の中にも常に新発見の芽が隠れており,身近な症例から最先端の発見までの距離が比較的短いという点が挙げられます.
近年,サイトカインをターゲットとした生物学的製剤や,シグナル伝達分子を標的とした低分子の分子標的薬が次々に開発されています.これらの薬剤の効果は非常に高く,これまでに得られなかったような臨床効果を速やかに得ることができるという利点がありますが,非常に高額であり,経済的に使用が難しい症例も少なくないという欠点もあります.また,典型例には非常に有効ですが,非典型的な症例については,効果が得られなかったり,あるいは逆に悪化させてしまったり,別の疾患を誘発してしまったりなど,予想外の結果が生じる場合があります.このような経験から,これまで形態学的に分類されてきた皮膚疾患を,病態の面から見直してみることが有用なのではないかと考えています.
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