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【Case】
南和医科大学5年の紀伊さんは,6週間の総合診療部実習が行っている大学病院総合外来での外来診療実習に参加していました.指導医の小畑先生は「次はこの患者さんから話を聞いてください.できれば,いくつかの診断を想定して話を聞けるといいトレーニングになりますよ.私は部屋の隅で様子をみていますので,頑張ってください」と言い,24歳女性の会社員樋口さんを部屋に呼び入れ,実習の主旨を手短に伝えました.紀伊さんは,まず挨拶,自己紹介,患者の名前の確認をし,「今日はどうされましたか」と開かれた質問から始めました.樋口さんは,前日から続いている強い左下腹部痛を訴え,食欲があまりないこと,便通は前日からないことを加えました.紀伊さんは最終月経が10日前から7日間,それまでの月経周期が28日だったことを確認しましたが,既往歴や家族歴に話題を移した後,何を尋ねればよいのかわからなくなりました.
小畑先生は,「では交替しましょう」と告げ,紀伊さんに替わって樋口さんの前に座りました.そして,発熱や悪寒といった全身状態に大きな問題がないことを確認し,「では消化器について尋ねましょう」と前置きしてから,便通が正常であり腹痛と便通の関連もないこと,軽い嘔気はあっても嘔吐はなかったことを明確にしました.また,「次は泌尿器や婦人科系ですね」と言い,1週間ほど前からの排尿時違和感,やや多量の帯下を明らかにしました.また,診察にて,37.5℃の微熱と,左下腹部の圧痛があること,反跳痛や筋性防御はないことを確認しました.そして,樋口さんに対し,「全体をまとめると,微熱があり,排尿時の違和感という尿道炎の症状,おりものの増加という卵管や卵巣の炎症の所見があるように思います.近くの婦人科で少し続けて治療を受けていただくのがいいかと思いますが,いかがですか」と説明し,紹介状を渡して診察を終了しました.
小畑先生とのフィードバックセッションで,紀伊さんは「左下腹部痛の鑑別診断がずらりと並んでいる表はみたことがありましたが,どうやって覚えればいいのかと不安になっただけで,それ以上勉強していませんでした」と打ち明けました.小畑先生は,「若い女性の腹痛を診ると,どんな医師でも少し不安になるので心配しなくていいですよ」と安心させ,次いで「私の質問の流れについてはどう感じましたか」と問いかけました.紀伊さんは,「まず,左下腹部には解剖学的に下行~S状結腸や尿管,女性の場合付属器があるんだなと再確認しました.また,若い女性が仕事を休んで来るのですから,仕事に疲れているのでなければ,急性の疾患ということになるのだろうなと思いました」と言いました.
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