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今回の症例は,高血圧と腎硬化症に伴う慢性腎不全を基礎疾患に持った患者が,発熱と頸部から頭部にかけた疼痛を主訴に来院した.初療医は,この患者は高齢かつ慢性腎不全という基礎疾患を持っており,急性の発熱を伴った疾患であることから,まず細菌感染のワークアップを始めることにした.救急室における問診では発熱と後頸部から頭部にかけての疼痛が主であったが,身体所見からは後頸部上位の強い圧痛と可動痛が目立ち,その他には左手関節の腫脹と疼痛がみられた.後頸部痛の原因として化膿性脊椎炎,椎間板炎や硬膜外膿瘍を除外するため,血液培養を採取し,頸椎単純X線写真と頭部から頸部にかけての単純CT検査を施行した.身体所見上ではいわゆる髄膜刺激症状とは異なる印象ではあるが,発熱および頭頸部痛もあることから髄液検査も行った.髄液検査は髄膜炎の所見はなかったため,化膿性脊椎炎や椎間板炎を想定した第一世代セフェムを抗菌薬として選択し治療を開始した.腎機能低下があるため,疼痛コントロールに対してはアセトアミノフェンを投与した.初療医はその他に考えられる疾患や必要な検査があるかどうか,上級医へコンサルトした.
上級医の考え
上級医は表1の後頸部痛の鑑別を示した.そして高齢で腎不全という基礎疾患を持ったこの患者に対する初療医の鑑別疾患,検査および治療と経過観察について,基本的には同意した.しかし,頸椎単純X線写真と頭・頸部CT検査から変形性頸椎症の変化がみられること,また歯突起の辺縁に石灰化した病変があることを指摘した(図2).この患者の膝関節の偽痛風での入院歴や,現在は左手に関節炎があり,同部の単純X線写真で左手関節の軟骨部に石灰沈着もみられることから,今回の疾患にも偽痛風が関わっている可能性があるのではないかと考えた.偽痛風は痛風類似の関節炎をきたすが,実際には急性単関節炎のみならず多関節炎や脊椎炎様の症状を起こすものまである.初療医には当然,細菌感染を考えつつ,その他の腫瘍性病変を否定するために単純CT検査だけではなくMRI検査を追加することを指示し,同時に他の筋骨格系の問題がないか整形外科にもコンサルトするように指導した.
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