見聞記
霊長類を用いた内科的および外科的実験に関する会議(1)
中村 宏
1
1慶応義塾大学医学部泌尿器科
pp.399-402
発行日 1968年5月20日
Published Date 1968/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413200409
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アメリカ合衆国では,現在犬やモルモットのような今まで一般に用いられてきた動物の代りに,猿,ひひ(baboon)チンパンジーのような霊長類(primates)を実験動物として用いようとしている傾向にある。その理由は,解剖学的,生理学的,その他多くの点で,霊長類の方がより人に近いからである。犬やモルモットで行なつた実験よりも,霊長類で行なつた実験の方が,より臨床的に応用しうることが多いのである。例えば,薬剤の致死量,副作用は霊長類では人とほとんど同じ結果を示すし,心血管系では犬は大血管が脆ろく,心臓から出る大血管の解剖も犬では人と違うが,霊長類では,血管も弾力性があるし,大血管の解剖も人と全く同じである。産科の動物実験では,人と同じ解剖を有する動物を用いることがもつとも重要だが,霊長類以外にはこのような動物はいない。胆道の解剖も犬では人と違うが,霊長類ではやはり人と同じである。Dr.Goldsmithがひひを用いて始めて住血吸虫症の外科的治療法を確立したのも,犬では住血吸虫症が実験的に起こらないこと,門脈系の解剖がひひと人では全く同じことによる。ひひで成功したので,人に応用し,すでに数十人の患者をこの手術的治療法で救つたのも,ひひを実験動物として選んだためということができよう。
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