随筆
なつかしい昔読んだ書物
高橋 明
1
1東京大学
pp.176
発行日 1967年2月20日
Published Date 1967/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1413200108
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私には今から58年前明治42年(1909)11月に福岡医科大学(九大医学部の前身)を卒業し,翌43年(1910)1月から東京大学大学院に入学して土肥慶蔵教授の指導のもとに,皮膚科学,泌尿器科学を専攻することになり,爾来東大畑で育つ身となつた。その頃には大学に泌尿器科学講座はなく原書としても,その参考書は少なかつた.幸い東大皮膚科教室には,洋行帰りの田中友治助教授が居たので,「現在泌尿器科学の手引きとして適当なる原書は何ですか」と尋ねたらば,氏は速座に,それは「カスペル」を読み給えと云われた。Leopold Casper著Lehrbuch der Urolcgieで,第1版は1903年5月に伯林のUrbanと維納のSchwarzberg書店から発行されたものである。私は早速南江堂から第2版で1910年6月出版されたばかりの新本を手に入れた。575頁の部厚なもので221個の挿図もある立派な書物であり,見るからに胸のわくわくする感じがした。昼の間は医局員としての勤務が多忙であつたから,夜間下宿屋でムサボルように熟読翫味した。お蔭で今まで全然知らなかつた泌尿器科学の大要を知ることが出来て嬉しかつた。4年間の大学院生活を終えた私は,大正2年(1913)10月に西比利亜経由で独逸に留学し伯林大学で泌尿器に関する病理学を研究する際に,あの「カスペル」の著書から得た知識が非常に役に立つたことは云うまでもない。
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