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この『臨床推論ダイアローグ』はあらゆる臓器,あらゆる分野の疾患が網羅され,種々の症状を訴える40の症例が提示されています。初診の外来患者について,正しい診断に導くために指導医が研修医に問題を提起しながら尋ねていき,それに対して研修医が答えながらも指導医にも質問するという対話形式で進められ,最終的にはその症例の診断が示される医学教科書です。また,その症例の難易度が5段階に分類されているのも特徴です。指導医と研修医との間で,prologueとして現病歴・既往歴が紹介され,dialogueとして主要な鑑別疾患,特徴的な身体所見,必要な検査などの診断アプローチやそのコツについてdiscussionが進んでいき,最後にepilogueとして確定診断が示され,参考文献も提示されています。
この本で工夫がみられるのはなんと言っても,dialogueの内容です。すなわち症例によっては,上述した内容以外に,症状からの鑑別方法,身体所見の取り方,緊急検査の必要性や検査方法の選択,初期対応などの基礎的なものから,画像を含む検査所見の見方,細胞外液と細胞内液などの病態生理に対する考え方,あるいはすでに投与されている薬剤(漢方薬を含む)に対する考察,治療の問題点などの応用・発展的なものまでを含めてdiscussionのポイントとしています。さらに,「診断エラー」は思い込みなどの6つのバイアスがあることが取り上げられており,筆者にとっても過去の反省を含めて参考になりました。この本の素晴らしさは,これにとどまらず,31のMonologueが用意され,その症例に関連した知識を拡大し,深みが増すように工夫されていることです。実際に読んでみると,指導医が研修医に教えている内容も素晴らしく,1つの症例からたくさんのことが学べるのだということを,改めて教えられた気がします。
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