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腎移植後の合併症のうち肝機能障害は,発症頻度の高い合併症の一つであるが,その原因では薬剤性肝障害,ウイルス肝炎によるものが大部分を占めている。その中でウイルス性慢性肝炎は,致命的な合併症に進展し患者の生命予後を悪化させる重大な要因となり得るため,腎移植の適応を含め移植前後におけるそのマネジメントは大変重要である。HCV感染症は,現在その頻度は世界的には分布差があるが概ね血液透析患者および腎移植患者においては2~50%である。HCV陽性腎移植患者の短期の生存率はHCV陰性血液透析患者より優れている。しかし,長期の検討ではHCV陽性腎移植患者の肝臓に起因する死亡率が増加しているとの報告もなされている。これらの結果から,移植前にHCV感染を撲滅する試みが必要であるとの指摘もされている。IFN-αは末期腎不全(ESRD)患者には一般より効果は高いが,一般で使用可能な抗ウイルス剤(リバビリン)は高度な溶血を起こし腎クリアランス機能も低下するため使用禁忌となっている。しかし腎移植後のIFN-α療法は比較的高い効果がある一方で,IFNに関連した急性拒絶反応などによる移植腎喪失となるリスクがあり,まだその投与は慎重に行う必要がある。HBV感染症は,現在その頻度は世界的に血液透析患者や腎移植患者においてもワクチン接種や感染予防により減少しているが,一部アジア環太平洋地域,アフリカなどではいまだに高発生率である。HBs抗原陽性血液透析患者に対しての腎移植は著明に生存率が低下するが,HBs抗原陽性血液透析患者に対してのIFNや抗ウイルス剤(ラミブジン)投与下では移植前後ともに安全かつ効果的であり予後を改善可能である。さらにラミブジンは移植時術後早期のreactivationやその後の肝硬変への進行や晩期肝不全を予防するためにもこれら患者には投与すべきである。ラミブジン抵抗性になった場合免疫抑制剤により病状がさらに加速し重篤な肝再生不良な肝炎が再燃することがある。また治療の中止により重篤なlamivudine-withdrawal hepatitisになる可能性も指摘されている。しかし腎移植患者におけるHCVおよびHBV慢性肝炎は,一般と違って無治療のままでは罹患率や死亡率は高いが,治療によりかなり予後を改善し得るものと考えられる。これら患者に対する最も重要な予後の指標は,移植時における肝炎自体の進行であるため,肝生検を臨床的にも画像上でも肝硬変のないHBs抗原陽性やHCV-RNA陽性の腎移植希望者に対し行うことは重要であろう。活動型ウイルス感染に伴う進行性肝硬変では,現在においても相対的に腎移植は適応がないと考えられる。
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