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1 診療の概要
精巣上体炎は,急性と慢性に分類される。急性精巣上体炎の原因はクラミジア・トラコマチス,淋菌など,一般細菌として大腸菌,変形菌,表皮ブドウ球菌,腸球菌など多岐にわたるが,尿路,性器感染症に続発するものが多く,10歳代の後半から30歳代までの急性尿道炎に続発する場合は,その大部分がクラミジア・トラコマチスや淋菌が起炎微生物と考えられる1)。つまり性感染症としての尿道炎の原因と同一であり,尿道炎の重症化といえる。したがって尿道分泌物の有無,性状についての情報が重要である。一方,高齢者などの明らかな性感染症のない場合には,腸内細菌が原因である尿路感染症によることが多い,慢性複雑性尿路感染症(残尿,カテーテル留置など),細菌性前立腺炎,経尿道的手術,経尿道操作などが原因となる。小児や高齢者の場合に尿路感染・細菌尿が原因と疑われれば,尿流の停滞の原因となる尿路奇形,尿路結石,前立腺疾患などの精査を治療後に行ったほうがよい。さらに肺外結核症として結核菌も原因となる。原発巣からの血行性感染,あるいは腎・膀胱結核からの感染経路が想定され頻度は低いが,高齢者だけでなく若年者にも散見される。
一方,慢性精巣上体炎とは,精巣上体が短期的腫脹することなしに,何らかの硬結があり,軽度の疼痛が持続するものを総称したものともいえる。これらのなかには,細菌性やクラミジアによる急性炎症が治療によっても十分に寛解せず,遷延しているものをはじめ,当初から慢性症として診断されるものあり,一部には結核性精巣上体炎や精子侵襲症なども含まれ,初診時にその病態,原因を的確に捉えることは必ずしも容易ではない。直接精巣上体を穿刺して得た検体から遺伝子診断法あるいは免疫学的に菌を検出する方法も行われているようであるが,一般的ではない。したがって,通常の諸検査と同時に,治療的診断としてまず抗菌化学療法を行い,その反応により起炎微生物などの推定,あるいは手術療法の適応について考慮することとなる。
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