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患者 30歳代,男性。
主訴 血塊を混えた無症候性血尿。
家族歴 特記すべきことなし。
既往歴 出生時より左足に血管腫がみられた。小児期より排便時に出血するため,多くの病院で検査や治療を受けたがはっきりした診断結果は覚えていなかった。
現病歴 1か月前に無症候性血尿が認められた。一時軽快していたが血塊が混入した血尿が続くため当院を受診した。
初診時現症 血圧130/60mmHg,体格は中等度,顔面が貧血状,左臀部から左下肢にかけて広範囲の血管腫が認められ,さらに左下肢には静脈の怒張と腫大がみられた(図1)。腹部触診は異常なく,聴診で胸腹部に血管性雑音は聴かれなかった。
初診時検査成績 赤血球数433×103/μl,Hb 9.4g/dl,Ht 30.6%,血小板12.8×103/μl,血清総蛋白5.6g/dl,アルブミン3.0g/dl,肝機能,腎機能には異常はみられなかった。尿所見は蛋白・糖はなく沈渣では赤血球が20~29/Hであった。
画像所見・診断 腎膀胱単純撮影で骨盤内に多数の円形の石灰化がみられた(図2)。骨盤部のCTでは膀胱壁に接して多数の円形の石灰化がみられ静脈の石灰化と診断した(図3)。腹部超音波断層では左腎下極に接してカラードップラー法で向かってくる流れの赤,遠ざかる流れの青に識別された蛇行する大きな脈管の存在が疑われた(図4)。造影CTでは動脈相では腹大動脈(Ao)が造影され,その左に2つの大きな脈管が薄く造影されていた(図5)。静脈相になると腹大動脈の造影は薄くなり,腹大動脈(Ao)を挟んで左に2つ,右に1つの脈管が造影されていた。右の脈管は下大静脈(IVC)と思われた。両側腎の形態には異状はなかった(図6)。ここまで画像検査を行い腹部血管異常,動静脈瘻に起因する骨盤内静脈のうっ血による膀胱出血と診断した。専門的な血管検査,治療が必要と判断して高知大学医学部呼吸循環再生外科へ転院して検査を行った。まず造影CTの3次元像(図7)では,上腸間膜静脈(SMV),下腸管膜静脈(IMV)の拡張がみられ,骨盤内にもうねうねと拡張した静脈が多数みられた。血管造影の3D像(図8)では腹大動脈を造影すると直後に上腸間膜動脈(SMV)と上腸間膜静脈(IMV)が造影されてくる。図8のマークがある部位に動静脈瘻がみられ動脈から直接静脈への流れ込みがみられた。さらに上腸間静脈から帰ってくる血液が,門脈が狭窄しているために下腸間膜静脈に流入して骨盤部の側腹血行を介して内腸骨静脈から下大静脈へ帰っていく静脈系が判った。内視鏡的には膀胱,直腸壁に血管の怒張はみられたが明らかな出血巣はなかった。検査結果をまとめると腹腔内静脈奇形と腹部・骨盤部・左下肢の静脈拡張,左臀部から左下肢にかけての血管腫と腫大であった。これらの所見よりcutaneous capillary hemangioma,soft tissue hypertrophy,venous varicositiesの3つ所見を特徴とするKlippel-Trenaunay症候群1~3)と診断した。
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