- 有料閲覧
- 文献概要
ここ数年,蚊アレルギーと呼ばれる病態に興味を持っている.慢性活動性EBウイルス感染症にみられ,蚊刺部の水疱,壊死を伴う激しい反応に加え,発熱,リンパ節腫張などの全身症状を伴う疾患である.なぜEBウイルス感染症に合併するのか不明で,自家製の蚊抗原を調製して調べてみることにした.家内や子どもの協力を得て20匹ほど集め,抽出した抗原でパッチテストやリンパ球幼若化試験を試みたところ強い反応を得た.由緒正しい抗原がほしいと考えていた矢先,蚊の唾液腺を研究している先生が香川医大におられることを知った.お願いして数種類の蚊の唾液腺をいただくことになった.吸血蚊を採取し,産卵させ,出てきた幼虫から羽化した成虫20〜30匹を用いて唾液腺を摘出するとのこと,いうまでもなく大変な苦労と名人芸を要する.いただいた抗原を使用した結果,全症例でヒトスジシマカの唾液腺に特異的な反応がみられ,現在この抗原を用いて研究を進めている.
これまで夏の到来とともに出現し,痒みを引き起こす厄介者としか考えていなかったのに,あの小さな虫体から唾液腺を取り出して研究しておられる先生の存在を知り,正直驚いた.かくいう私自身も蚊の研究を始めた途端に,これまで気にも留めていなかったこの小さな生物を,この上なく大切なものと感じるようになっていることに気づき,気まぐれな自分に少々呆れている.振り返れば,大学院で致死率の高いハンタウイルスを研究した時も,留学でエイズウイルスの研究を始めたときも,それまで怖いウイルスとして興味の対象から外れていたのに,いざ研究を始めてみると,その魅力に取り付かれてしまったことを思い出す。日常診療においても,見る人が見れば大切な宝物になるはずの症例を自分の興味の外にあるがゆえに見過ごしていることが多々あるのではないかと反省している.幅広い分野に興味を持つことと,専門家の意見を聞くことの大切さをあらためて感じた.
Copyright © 2001, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.