Derm.2001
大それた目標
根岸 泉
1
1群馬大学皮膚科
pp.178
発行日 2001年4月15日
Published Date 2001/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412903576
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私は医学部卒業後10年間基礎医学研究に従事してから皮膚科を選んだ.大学院では骨髄移植マウスを,その後の米国留学中は遺伝子ノックアウトマウスを使ってT細胞分化の研究に没頭してきた.リンパ球の分化は培養方法,分化マーカー,解析方法などが比較的整っているので,免疫学の枠を超えて細胞分化の一モデルとして多方面から注目されている.最先端の華やかな世界を想像されるかもしれないが,半分以上の時間はマウスのケージ交換や受精卵操作,マウスの交配と繁殖といった免疫学とは程遠いことに費やしていた.
臨床医学に未練を感じながら基礎研究に深入りする毎日から見えてきたものは,両者のギャップだった.基礎研究が命や人間性,臨床医学を置き去りにして一人歩きしているかのように感ずるのは,きっと私だけではないだろう.目的が異なるのだから進む方向性が異なるのは仕方ないことだが,臨床の現場には研究のヒントが数多く隠されているだろうし,最先端の研究成果には治療や診断に直結しなくとも,様々な病気のメカニズムを理解・推測するのに役立つことがたくさんあると思う.留学を終えるころ,大それたことに,基礎医学と臨床医学の橋渡しとなるような仕事をしたいと考えるようになった.研究室から周囲を振り返ってみると,学生時代私にとって一番遠い科であった皮膚科が浮上してきた.それは,これまで培ってきた知識と技術を活かすのに皮膚科が最も相応しい分野に映ったからである.
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