Derm.'98
患者を診るということ
五十嵐 泰子
1
1東京女子医科大学皮膚科
pp.76
発行日 1998年4月15日
Published Date 1998/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412902516
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皮膚筋炎の診断のもと26歳の男性が入院してきた.一見明るく,人なつこい青年であった.病状,治療内容などを説明し,プレドニゾロン60mg/日の内服を開始した.皮膚筋炎自体はプレドニゾロンに反応し,症状,検査所見ともに軽快傾向であったが,もともとの神経質な性格にステロイドの影響もあってか,しばらくして精神状態が不安定となり,うつ状態に陥ることもあった.精神科に相談するとともに,主治医であった私は,患者の不安を少しでも取り去ろうと,毎日1時間近くいろいろな話をし,患者とよい関係を築く努力をした.ある日,突然右手から前腕にかけて疼痛を伴った紅斑,腫脹が出現した.血小板第4因子,β-トロンボグロブリンの上昇もみられ,血栓性静脈炎を疑ってリマプロストアルファデクスの内服を開始した.徐々に症状は軽快したものの,ステロイドの長期内服による血栓形成を防ぐため,リマプロストアルファデクスはそのまま継続にした.入院して2か月が過ぎた頃,患者の入院に対するストレスが強くなり,激しいうつ状態に陥ったため,プレドニゾロン45mg/日の時点で退院とした.
その後,精神状態に波はあるものの全体的に経過は良好であったが,退院の10か月後,患者からリマプロストアルファデクスの内服はずっと行っていなかったと告白された.入院中突然右手から前腕にかけて出現した紅斑,腫脹は,入院のストレスや家族への不満などから患者自身が壁に握り拳を打ち付けた結果であり,自然に治ると思ったというのだ.精神面にはかなり注意を払っていたつもりであったが,そのことに全く気づかなかった私は,自分の未熟さを実感するとともに,病気だけでなく患者を診る難しさを痛感した.
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