Derm.'97
本誌報告症例の裏話
田中 稔彦
1
1広島大学皮膚科
pp.38
発行日 1997年4月15日
Published Date 1997/4/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412902166
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症例は本誌第47巻第1号に報告した18歳の女性.主訴は右足第2趾の難治性潰瘍.右足は全体的に“温かく,腫れぼったい感じ”であり,カルテには「局所熱感と腫脹あり」と記載した.生検を行い,少し奇妙だなと思いながらも病理診断は肉芽腫性炎症とした.非定型好酸菌症か深在性真菌症等の診断を考え,地方会レベルの発表演題ができたと,組織材料からの培養結果を不謹慎ながら心待ちにしていた.患者さんにしつこく「自宅か職場で熱帯魚は飼っていないか」尋ねたが否定されて些か不満であった.患者は潰瘍部に疹痛を訴え,早期の根本治療を望んでいたが,培養結果がなかなか出ないため治療に踏み切れず,主治医の気持ちは焦るばかりとなった.入院後約1か月が過ぎた頃,同僚が生検組織標本を改めて詳細に検討し,当初我々が肉芽腫と考えていた真皮内の結節状の細胞集塊は,一部管腔を形成することから血管内皮細胞の増殖ではないかと指摘し,教科書を漁ったところ動静脈瘻に伴う反応性の血管増殖であるpseudo-Kaposi's sarcomaの診断が目にとまった.そうして改めて患者を見直してみると,足背の静脈は怒張し拍動を触れ,そこを流れる静脈血の酸素分圧は動脈血程度に上昇していた.血管造影を行うと足背部に見事な動静脈瘻が描出された.感染症による局所熱感と思われたものは血流増加による皮膚温上昇であり,腫脹と思われていた右足は,骨の成長促進によって実際に左足より大きかったのである.初診時に臨床所見を正確に観察していれば,もう少し早く診断できたであろうにと大変悔やまれた症例であった.
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