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5年前くらい前だったでしょうか? オミクス解析大家の基礎の先生の講演後,当時所属していた他科の臨床の教室の教授が「ここまで解析が複雑化してきて,われわれ臨床医は,どのように研究に取り組んでいけばよいのでしょうか?」と質問しました.そのときに,その演者の先生は,「お医者さんは,お医者さんで患者さんを治療していて,十分世の中の役に立っているのですから,サンプルを提供してくださるだけで十分ではないですか」とお答えになりました.そのときのやり取りが,強烈に頭に残っています(というかカチン!と来ました).マイクロバイオーム解析,シングルセル解析,さらにはドライのみのデータベースの解析……膨大なデータ解析は,確かに大規模な研究予算を投入すれば,素晴らしいデータが出ると思います.ただ,そのような研究にアクセスできる臨床医は,ビックラボのメンバーやツテのある人に限定され,一方,若手の,例えば限られた予算で,臨床検体を数例解析しても,科学的に説得力のあるデータは得られません.そして,計画書の作成から研究開始まで,膨大な書類仕事を自らこなさねばなりません.ただ,5年前に「サンプルを提供するだけの臨床医」という言葉に囚われてしまっただけかもしれません.でも,それ以来,流行りに乗っただけのようなデータ解析の研究を見ると,アレルギーを起こしてしまうのです.しかし,一捻りも二捻りもした臨床研究は,ローコストですが,時間がかかる.「サンプルを提供するだけの臨床医」という言葉にアレルギーを獲得して,たった一言の言葉に囚われ,時流に乗り遅れるというのが,私の現状です.しかし,研究者が「ああでもない,こうでもない」と頭を捻り,仮説を立てて,地道に研究するという分野自体が,今後縮小されていくことでしょう.
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