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静岡での講演で,京都大学名誉教授の宮地良樹先生が,還暦を迎えようとした私に声を掛けてくれた.県立の大学院大学学長として赴任される予定で,学生を募集中だそうだ.まさか私に対してと思いながら,何か面白そうなものがそこにあるという直感がちらりと頭をよぎった.まさか,私が大学院生になるとは思わなかった.
病院管理者のひとりとなってから,皮膚科診療に加え,数多くの会議に出席することを強いられるようになってしまった.新型コロナウィルス感染の猛威によって,私も軽症例入院当番に協力する必要が生じている.このまま老いさらばえていくのかと陰うつになっていた矢先,宮地先生の社会健康医学大学院という言葉は,徐々に魅力的な言葉と感じるようになった.でも,社会健康医学(School of Public Health:SPH)とは何ぞや.人の健康と福祉を向上させることを目的とした,医学・医療と社会・環境を通じたシステムや活動.うーむ.わかったような,わからぬような.SPHの基礎は,疫学と医学統計学らしい.数理的思考は好きだが,統計の本質がわからぬままにこの年になってしまっていた.そして,いつかは統計をしっかり学ばなければとぼんやりと思っていた.良い機会かもしれないと,私は思った.学生は,社会人が対象である.働きながら受講が前提なので,オンラインやオンデマンド受講も可能らしい.教員は20名以上だが,定員は10名で,贅沢な環境.この年にして,入学試験を勝ち抜けるか.逡巡と葛藤の1か月を経て,ある日,思い切って妻と子供に大学院入学を宣言した.「いいじゃないの,ボケ防止で」「若い人と勉強すると若返るかもよ」と思いがけない反応に,拍子抜けした.いくつかの壁を乗り越え,そして2021年4月,晴れて私は最年長者の静岡社会健康医学大学院大学1期生となった.
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