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遺伝外来において医師が果たさねばならない役割は多岐にわたる.まずは的確な診断である.ここには遺伝的多様性と臨床的多様性の問題がある.遺伝的多様性とは,全く異なった遺伝子が変異することにより,とてもよく似た臨床症状が生じることである.例えば先天性魚鱗癬では,さまざまな原因遺伝子の変異により,よく似た症状が生じる.臨床的多様性とは,同じ遺伝子の変異であっても,変異が異なれば全く異なる臨床症状が生じることである.例えばGJB2変異は,Vohwinkel症候群やKID(keratitis-ichthyosis-deafness)症候群といった全く異なる疾患を引き起こす.臨床像のみから遺伝形式を判断することは,時に大きな誤りを生じるために危険であり,患児の両親が次子を希望した場合に同じ疾患を持つ子が産まれる危険率,患者が結婚し出産を希望する場合に同じ疾患が子に遺伝する危険率,を推定する場合は,遺伝子検査を実施して総合的に判断することが望ましい.しかし,遺伝子検査を行い,その結果をただ患者やその家族に伝えるだけでは十分とはとても言えない.遺伝外来を担当する医師には,遺伝子検査の結果を読み解く知識,そしてその結果を的確に伝え,患者またはその両親が自分の意思で的確に判断し,検査や処置を選択できるようにサポートするための,遺伝カウンセリングの知識と技能が絶対に必要である(図).
このような知識と技能を一朝一夕につけることは困難である.遺伝性疾患には稀少な疾患が多く,経験値を積むこと自体が困難なことも多い.遺伝外来を担当していると,初めて出会う疾患を数多く経験することになる.医師には原因遺伝子から分子的な病態を類推する,基礎研究者としての能力が求められると同時に,「病気の子を産んだ原因は自分にあるのではないか」,「この子をどう育てればいいのか」,「自分の病気を子供に遺伝させたくない」といった患者やその家族の思いに寄り添うカウンセラーとしての能力も求められる.どちらか一方だけでは片手落ちであり,基礎医学から臨床医としての能力,哲学,宗教観を含めた教養まで,全人的な対応能力を磨いていくことが大切である.単なる外来診療だけでなく,的確な遺伝カウンセリング,その裏で縁の下の力持ちとして行う遺伝子変異解析,さらに新たな治療法を導入するためのさまざまな手続きに至るまで,惜しみなく時間とエネルギーを注ぐ必要がある.
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