マイオピニオン
発汗研究の進化と皮膚科学の深化
室田 浩之
1
Hiroyuki MUROTA
1
1大阪大学大学院医学系研究科情報統合医学講座皮膚科学教室
pp.102-103
発行日 2017年2月1日
Published Date 2017/2/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412204983
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汗と皮膚疾患に関する新知見が報告されつつあり,皮膚科学の深化が感じられる.そのベーシックとなる発汗学の情報は皮膚科学に新鮮な風を送り込むとともに,その情報の多くが日本人研究者の発見であることに感動する.皮膚科の教科書では『現代皮膚科学体系』に汗と汗腺に関する詳細な記述がある.そこに引用されている多くが佐藤賢三先生の論文と久野寧先生の著書である.佐藤先生は汗腺のバイオロジー,久野先生は生物としてのヒトの発汗能力の評価で今日の発汗学の基礎を構築された.これまでに培われてきた学問的知見をどう臨床に活かすのかという次世代への課題は襷として皮膚科医にも託されている.発汗の意義とプロセスを皮膚科学に重ねることで,日々の臨床の景色が大きく変わるように思う.
発汗はヒトが進化の過程で必然的に獲得した重要な生理機能である.私たち哺乳類は恒温動物としても知られ,体温を一定に保つことで体内の化学反応が安定になるメリットを持つ.体温維持に要する莫大なエネルギーの代償を払っても哺乳類は化学反応安定化の道を選んだ.ヒトのエクリン汗腺は1個体あたり200〜500万個がほぼ全身に分布し,全身から発汗する.全身の汗は効率のよい体温調節に貢献するため,ヒトはマラソンのような長時間の持続的な運動が可能な上,環境適応能力に優れている.皮表の汗の蒸散で生じる気化熱が体の温度を下げる.体重70kgのヒトが体温を1℃下げるためには体表から100mlの汗の蒸発を必要とする.そのためエクリン汗腺は状況に応じて大量の汗を排出できる能力を持っている.
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