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—皮膚科ほど原因不明の疾患が多い科はない—とよくいわれるが,逆にその原因を探る作業は実に面白く,皮膚科はその“謎”に挑むチャンスにあふれた科であるともいえる.四肢末端と開口部周囲にのみに紅斑が出現する謎の皮膚病:腸性肢端皮膚炎が実は単なる“かぶれ”だったなんていう話は1),わかってしまえばフムフムなるほどという程度でしかないが,やはりその謎が解ければより適切な治療や予防が可能となってくる.もし仮に,—原因不明の皮膚病の多くが謎のウイルスによって起きている—としたら,ウイルス学を専門とする私としてはちょっとワクワクしてくる.私が医者になった頃にはKaposi肉腫やMerkel細胞癌がウイルス感染によるものだとは露ほども思わなかったが,今ではそれぞれの多くがヒト8型ヘルペスウイルス(human herpesvirus-8:HHV-8)あるいは新種のポリオーマウイルス(Merkel cell polyomavirus:MCPyV)によって引き起こされることは広く知られている.腫瘍以外にも,きっといろんな原因不明の皮膚病が意外なウイルスによって引き起こされているに違いない.
とは言え,コッホの三原則を持ち出すまでもなく,たとえ“ある患者あるいは病変部皮膚”に“あるウイルス”がたくさん存在しても,そのウイルスがその皮膚病の発症原因であるかどうかは別問題であり,その証明は難しい.留学中に東大の渡辺孝宏先生と一緒に,いかにもウイルス感染症っぽい皮膚病であるジベルばら色粃糠疹(pityriasis rosea Gibert:PR)の原因を調べる研究をしたことがある.患者血清中にHHV-7が特異的に認められることが既にLancet誌に報告されていたが,われわれの研究でHHV-7に加えてHHV-6が患者血清中のみならず皮疹部にも見つかった2).きっとPRはこれらのウイルスの“再活性化”により起こるのだろうと思いながら帰国してみると,これらのウイルスがある特定の薬によって再活性化される病態:薬剤性過敏症症候群(drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHS)が日本で新たに提唱されて話題になっていた.あれから10年以上経つが,日本ではHHV-6,7とDIHSとの関連は広く認められているものの,なぜかPRとの関連については懐疑的な意見が多い.PRではほかに“本物”の原因ウイルスがいて,HHV-6,7は非特異的に再活性化されているだけだと言って無視を決め込む先生もいる.しかし,これまでに報告されたHHV-6,7が原因ウイルスであるとする両者の研究成果を客観的に比べても,私には今のところDIHSとPRとでそのエビデンスレベルに差がないように思える.他の炎症性疾患ではHHV-6,7は増殖していないことが両者で示されているが,この手法ではいくらdisease controlsを増やしても確証には至らないかもしれない.結局,この“ニワトリと卵”のような論議に終止符を打つためには,HHV-6,7の増殖を特異的に抑制する薬が開発されるのを待つしかないのだろう.
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