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本誌43巻4号(385-389頁)に掲載された内田らの「Acral Lentiginous Melanoma in Situの2例」は,足底悪性黒色腫初期病変の概念と診断上の問題点を考察する上で貴重な論文と思われます.
症例1の診断にはほとんど問題はありませんが,症例2は著者らも述べているように良性の後天性色素細胞母斑との鑑別が問題になる症例と思われます.内田らは,異型メラノサイトの個別性増数が表皮基底層のみならず,一部で有棘層にまでみられ,かつ不規則な胞巣形成を伴っていたことなどを根拠に,この症例をmalignantmelanoma in situ (mm in situ)と診断しております.われわれが最近,足底の母斑類について表皮内メラノサイトの増殖様式を検討したところ,良性の後天性色素細胞母斑65症例のうち45例(69%)において,表皮内にメラノサイトの個別性増数がみられ,また22例(34%)では有棘層部にまでそれが認められました1).内田らは,Ackermanのmm in situの考え方を診断根拠のひとつにしていますが,Ackerman自身も最近,足底の母斑ではメラノサイトの個別性増数が表皮内のかなり上部にまで認められうることを報告しております2).また,メラノサイトや母斑細胞の核異型の有無の判定は,なかなか微妙なことがあり,われわれの検索では良性の足底母斑65例中17例(26%)において多少の核異型が認められました1).このような理由から,足底にはAckermanの診断基準に拠ってもmm in situか母斑かの判定に迷う病変が稀ならず見山されることになるわけです.内田らの症例2もこのような症例であって,良性の母斑である可能性が高いのではないかと私は考えております.最近,私共が作成した病理組織学的診断基準(案)1)に当てはめてみても,この症例2は少なくとも現時点ではmm in situとは診断しえない段階の病変と判定され,おそらくは良性の後天性色素細胞母斑であろうと診断されます.
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