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1.はじめに
中間径フィラメント(intermediate-sized filament,IF)は,直径24nmの微小管(microtubule, MT),6nmの微細線維(ミクロフィラメント,microfilament,MF)とともに細胞骨格を形成している太さ8〜10nmの線維である.これらの細胞骨格は広く有核細胞に分布し,互いに,あるいは別個に細胞の構造と機能を制御している1,2).MTとMFはそれぞれ,α,βチュブリンとα,β,γアクチンというような比較的単純な蛋白質から成るが,IFはその構成蛋白質がきわめて多様性に富み,生化学的,免疫学的に5種類に分類される3,4).それらは,上皮系細胞のIFであるケラチン(keratin,ケラチンはさらにヒトでは19種類に分けられる〈表15)〉),筋細胞系IFのデスミン(desmin),間葉系細胞IFのビメンチン(vimentin),神経膠質細胞系IFのグリア線維酸性蛋白質(glial fibrillary acidic protein, GFAP),神経細胞系IFの神経線維蛋白質(neurofilament protein,NF)である3,4).これら各IF蛋白質は組織や細胞によってその発現に特異性が高く腫瘍診断や細胞の分化の研究などに応用される6,7).
一般的に,任意の組織や細胞に発現したIFのタイプの同定に関する検索には生化学的方法8,9)と,免疫組織学による方法との2種類が用いられてきている6,7).最近ではcRNAプローブを用いたin situハイブリダイゼーションによるケラチンmRNAの検出による方法も用いられはじめている10).生化学的には二次元電気泳動法とインミュノブロットが用いられ,免疫組織学ではモノクロ—ナル抗体による蛍光抗体法や酵素抗体法が用いられている.後者においては近年非常に多数のモノクローナル抗体が開発され,とくに抗ケラチン抗体だけでも20種類以上も市販されている(表2).したがって,抗IF抗体を用いた腫瘍診断の臨床応用も利用範囲が広くなってきている,しかし,これらの多数の抗体を効率よく誤診のないように用いるためには,IFの生化学的,細胞生物学的性状とともに,これらの抗体の特性について正しく理解する必要がある.現在市販されている抗ケラチン抗体に関する総説的ガイドがないために時々誤用されている例もあるので,本編では,IFの基礎とともに市販されている抗体の特性とその免疫組織学での意義についてまとめることにする.
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