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図80 Woringer-Kolopp病と呼ばれる特殊な型の菌状息肉症がある1).四肢に単発する稀な疾患で,その経過は長いが,拡大浸潤がおそく,何年も経過するのに一向に腫瘍化しない.図80 Aにみられるように軽い紅斑,または浸潤を示す局面が,周囲より明瞭に分界された病巣を形成する.自覚症状はない.表面に僅かな細かい鱗屑を生じ,周辺に向かって遠心性に拡大することがあるので,一見浅在性白癬,環状肉芽腫,ザルコイドなどと紛らわしい.生検をとると,真皮上層から表皮へかけて大小のリンパ球の浸潤がみられ(図80 B, C),特に表皮内で集団を作る傾向が顕著である(図80 D, E, F).本症で表皮内に腫瘍細胞の集合したものをポートリエ微小膿瘍(Pa—utrier's microabscess)という.表皮内へ集まる傾向が強いことをepidermotropismというが,本症の別名としてepidermotropic reticulosisのある所以である.また表皮内にボコボコと穴の空いたような空隙を作り,その中に腫瘍細胞を含む像(図80 D, E, F)はバジェット病の組織像に似ているので,pagetoid reticulosis2)なる名称も使用されている.電顕用に固定した組織に光顕用の染色(アズールB)を施した1μの"thick section"が図80 D, E, Fである.オスミウムとグルタールアルデヒドの二重固定により細胞の微細構造や脂質,糖原などの保存が良好なので,フォルマリン固定でパラフィン包埋した組織とは比較にならないほど,組織,細胞の保存が良い.即ち組織や細胞がグサグサに抜けた感じがしない.このような組織でポートリエ微小膿瘍をみると,周囲の角化細胞(keratinocyte)とは明らかに異なる明調な腫瘍細胞が区別できる(図80 D, E, F).細胞質が明るいのはトノフィラメントがないからである.細胞と細胞の間には何の連結もなく,この点でも周囲の角化細胞が多数の細胞間橋を有するのと明瞭な差がみられる.微小膿瘍中の腫瘍細胞の核の切れ込みは,菌状息肉症やセザリー症候群の腫瘍細胞のそれほど深くない.これは後述する如く本症が良性の腫瘍に属するためである.即ち核の切れ込みの度合いは腫瘍細胞の悪性度に比例すると考えられている.図80 Fには真皮乳頭層に浸潤している腫瘍細胞もみられるが,これらの細胞の核の切れ込みの低度も程い.
80B:×1080C:×4080D,E,F:×252
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