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皮膚創傷治癒は皮膚欠損の修復であるからまさしく皮膚科医の専門領域である.創傷治癒理論は細胞生物学的にも再生・炎症学的にも十分な検証が行われ,既に学問としては完成の域にある.しかし,臨床現場では,さしたる進歩も変革もなく,先輩から脈々と「消毒して軟膏塗布してガーゼをする」という古典的なドライドレッシング手法が受け継がれてきた.私も研修医のときからさしたる疑問を挟むことなく,しかし系統的な教育を受けることもなく見よう見まねでまるで儀式のように粛々と「包交」と呼ばれる画一的なセレモニーを行ってきた.
私が「異変」に気づいたのは,ふとしたきっかけで褥瘡領域に足を踏み入れたときであった.当時,褥瘡では米国から専門看護師が創傷治癒の新しい息吹を導入し,「一切消毒はしない」「キズは乾かさない」という新理論を展開しているさなかであった.たまたま私がポビドンヨード製剤を開発上市した頃であったので,「消毒をするとはけしからん」と集中砲火のようなバッシングを受けた.そこで,自分たちが今まで習得してきた創傷治癒理論は間違いであったのか,皮膚科のスキンケアは褥瘡では異端なのか,と自問自答し,精力的に勉強した.その中で,既に1960年代からmoist wound healing理論が提唱され,その理論を背景に各種ドレッシング材が開発されていることを学ぶとともに,創面の評価をもとに感染あるいは最近の用語で言えばcritical colonization(細菌の臨界的定着)があれば消毒をするべきであるという結論に達した.その後は褥瘡学会の設立やガイドライン策定,創傷評価ツール開発などを経て,褥瘡は「チーム医療の優等生」という評価をされるまでに発展した.しかしその過程で皮膚科医の支援は少なかった.
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