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かつてポスドクとしてYale大学で研究したのであるが,アメリカを離れて30年以上経った今も,なぜかYale alumuniの一員として様々な情報が大学から送られてくる.そのうちの一つがYale Medicineという同窓会誌である.医学部のいろいろな情報が満載で,しかも一般向けの記事として書かれているので,読んでいても楽しい.昨年の夏号に,2008年のマッチングが“Match Day2008”として掲載されていた.これによれば,全米22,240の一年目レジデントポジションに28,000人の卒業生が応募.すなわち,厳しいコンペティションで,約6,000人があぶれるのである!Yale大学卒業生は97人で,全員がマッチに成功した.Yaleに残ったのは16人.学生部副部長は“I couldn’t be happier.”と,大喜びである.マッチがうまくいったと,学生同士抱き合っている写真がたくさん載っていた.マッチングとは,数々のインタビューをこなして狙った病院で研修できることであり,マッチングの成功はうれしいことであろう.一方わが国では,私の記憶が正しければ,2009年度のマッチングでは12,000のポジションに応募する学生が8,000人足らず.3月に入っても,まだ就職する病院を決めていないという学生がいた.受け入れ病院は腐るほどあるわけで,これではどう考えても本来のマッチングではない.インタビューもなし,学生は好き勝手に病院を選ぶ.来てもらう病院は学生に媚を売る!明治開国,いやそれ以前から,島国の日本は独自の文化を持つがゆえに,外国文化への憧れは強かった.多くの場合その取り入れはうまくいったわけだが,時に大きな失敗をすることもあった.マッチングもその最たるものの一つであろう.今の医療崩壊を見れば歴然である.最近の新聞コラムの記事であるが,筆者である有名な経済人が,若い頃Harvard大学に留学し,帰国後は「なんでもアメリカ一番」で仕事をやってきたが,最近その誤りに気づいたという.私と同じぐらいの年齢であろう.その頃の日本とアメリカを比べれば,そういう気持ちを生涯持ったとしても不思議ではないと思う.医療といえども,文化の中でそのコンテンツは育つ.アメリカの医療をそのまま日本に持ち込んでも,いろいろな場面で摩擦が起きるだけでうまくいかない.日本の文化の中で消化して取り込まねばならない.残念なことは,いまだに「じょうきせん,たった四はいでよるもねむれず」の医療従事者が日本医学会のリーダーの中にいることである.
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