- 有料閲覧
- 文献概要
岡山大学に入局し,乾癬を中心とする炎症性角化症に興味を持ち,表皮の角化の異常をきたす疾患の病態を考えるうちに,一度,皮膚角化細胞の分化についての基礎的な研究をしたいと考えるようになりました.周囲の先生方の御尽力で,この3年間ほど臨床と離れ米国ノースカロライナ州にあるNational Institute of Environmental Health ScienceのAnton Jetten博士のもとで基礎研究者として働く機会を得ました.これほどの長い期間,ただ研究をすることに専念したのは私にとって初めての経験であり,また,世界のさまざまな国から来た基礎研究者と一緒に仕事をする機会もはじめてでした.そうしたなかで今までの私の研究への取り組み方についていろいろと考えさせられることもありました.例えば,実際に手を動かして実験をする前に,どのような仮説を考えて,どのような実験をデザインするのが良いのか,どのようなコントロールを用意するのが適切なのかよく考えなければならないということなど,研究者として未熟であった私にとって学ばなければならないことがたくさんありました.同僚であったほかの研究者に比べて,私の論文の読み方がそれぞれの論文について,また,その分野を網羅してなかったという点について,実にいい加減であったと考えさせられたこともありました.自分が研究している分野や興味のある分野で新たに論文が出ていないか検索し,論文を熟読し,新しく報告された事実が自分たちの研究を進めるうえでヒントにならないか,あるいは自分たちの研究と類似して競合していないかなどを日々考えなければならないのは,私にとって初めは大変なことでしたが,次第にそうした作業にも少しずつ慣れてゆきました.
一年ほどたった頃,ある同僚の研究者が今週は図書室に行けなかった,とぼやいているを聞きました.私のいました研究所はNational Insititutes of Healthの一施設でほとんどすべての雑誌がon-lineで読め,私自身は実際に図書室にいって本物の雑誌を手に取ることがほとんどなくなってました.そういう状況でしたので,どうして図書室に行かなければならなかったのか聞くと,彼はこう答えました.On-lineで,ある範囲の検索した論文やいつもみるjournalばかりを見ているより,時には,見るつもりのなかった雑誌を手にして論文を読むのは新鮮で,予想を超えて,自分の知識を広げることができると思うんだと.10歳も年下で,博士号をとったばかりの研究者でしたが,その持てる知識を増やしたいという好奇心と探求する姿勢に当時感銘を受けました.日本に帰り,寄り道して論文を読むどころか,読むべき論文も読む暇がないほど忙しくなりましたが,時には彼の言葉を思い出して,新しい知識の習得にいつまでも積極的でありたいと考えてます.(〒700-8558 岡山市鹿田町2-5-1)
Copyright © 2004, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.