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21世紀は脳の時代,感覚器の時代とも言われています。耳鼻咽喉科学は,一口で言うと感覚医学と頭頸部外科学に集約できますが,私の教室では感覚器の中でも特に嗅覚の研究が歴代教授によって継続されてきた経緯から,現在でも積極的に押し進められています。私が所属する「日本味と匂学会」も既に創立30周年を経過しましたが,この会の創始者の一人であった故高木貞敬群馬大学名誉教授から,生前,出版後問もない著書「脳を育てる」(岩波書店)を送っていただきました。先生は神経生理学の大家で,特に嗅覚面においては著書も多く,わが国が世界に誇る基準嗅覚検査「T&T」の生みの親でもあります。この書では,人の脳の働きは神経細胞同士のネットワークの多さ,強さで決まり,その神経細胞は1日平均10万個ずつ減って,脳の働きは衰える一方,刺激によって新しいネットワークがつくられることなどが紹介してあります。興味あるところは脳の働きを高めるために何をなすべきかの提案であります。老後のボケを恐れる人は,是非一読されてはどうでしょうか。忙しくて読めない人のために項目だけを紹介しますが,項目だけではボケ防止にはならないことを申し添えます。まず脳の働きをよくする方法は,①問題に直面して逃げない,②よい書物を読む,③情報を選択して取り入れる,④未知の分野に目を向ける,⑤いい友人をもつ,⑥特技や趣味をもつ,⑦自分の意見を正確に相手に伝える,⑧多くの人と話しあう,⑨歴史を学ぶ,などであります。ついでに脳の働きを悪くするものとして,①テレビの悪影響,②責任の回避,転嫁,③不平ばかり言う,他人の批判ばかりする,④悲観,あきらめ,絶望,⑤この年ではもう遅いと思うことなどが掲げてあります。
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