鏡下咡語
人口内耳ことはじめ—独・豪での見聞
森満 保
1
1宮崎医科大学
pp.208-209
発行日 1999年3月20日
Published Date 1999/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411901947
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1973年,ベニスでの世界耳鼻科会議は,ロスのハウスー派による人工内耳の報告でわき上がった。人工内耳を移植された聾の少女は発表映画の中でスムーズに会話し,伴奏に合わせて歌った。会場では一斉に驚嘆の声がどよめいた。私は単極ということに懸念を抱いた。内耳での周波数分析はベケシーの進行波説(travel-ling wave theory)あるいは場所説(place theory)で説明されている。音は周波数に応じて基底膜上の波動伝達距離が異なるために,周波数分析が可能なのである。単極での音声アナログ電気刺激では,周波数別にその刺激が基底膜上に分配されるはずがない。電極位置の神経末端は,その周波数とは無関係に電気刺激によって興奮させられるに違いないからであり,そのときの音は電極位置に該当する周波数であるはずである。したがって,内耳レベルでの周波数分析がどのようになされるのか納得できなかったのである。ただ眼前にくりひろげられる映像は,その疑問を吹き飛ばすほどの迫力であった。
案の定,その後の追試報告は芳しいものではなかった。報告例はいわゆる読唇術の上手なスターペイシェント(star patient)でのみ得られる好成績なのであった。1985年,マイアミでの世界耳鼻科会議の後,単極人工内耳の製作会社3M社を訪れ,初めて実際の患者を面接した。
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