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■はじめに
耳介に(小)孔を作成し耳飾りを装用することは古代オリエントで始まり,その後今日まで世界各地で行われているものであるという1)。したがって最初にピアスを目の前でみたときに驚いた筆者は“井の中の蛙”であったわけである。そして今回のピアスについて調べる機会を与えられて再度井の中の蛙であることを痛感した。即ち,耳介は解剖からすると耳鼻咽喉科に属するわけであるが,ピアスに関する事項は整形外科,美容外科,皮膚科などの領域で扱われていることが多く,また,その扱いに実に様々な工夫がなされていることを知った。一方,まったく医療と係わらないところのみを通過していく例も多く,われわれ耳鼻咽喉科医は,比較的重篤な傷害となったものが突然に訪れてその実態に触れるようである。そのようなわけで,今回のこの論文は筆者自身,あるいは筆者が所属する教室の臨床経験を元に記載したものではなく,多くの方々から情報をいただいてそれらをまとめて解説的な論文として述べたものとなった。
また,「ピアス外傷」という表題を与えられたが,外傷というと,外力によって起こる障害のうち,一般には急性に生じるもので,さらに,予期しない事態として生じるものを指すことが多いと思われる。したがって「ピアス外傷」というと既にピアスを安定して装用している耳に,サウナなどにピアスをつけたまま入ってしまったための熱傷,スキー場での凍傷,ピアスの絞め具を絞めすぎたための壊死,ピアスが何かに引っかかり,引っ張られたための裂傷などが生じたものを指すものと思われる。しかし,これらの事態はきわめて稀なものであろう。一方,ピアス装用のために耳介に小孔を作成するときや,そのあと瘻孔が安定するまでの期間に生じる傷害,また,一度は瘻孔が安定した後に,新たなピアスを装用することで生じる際の金属アレルギーを元にしたものや,感染が係わったもの,また,ケロイド体質などの内因が関与したものは,(狭義の)外傷というのには当たらずに,副損傷とか,ピアスが関与した傷害といわれるべきであろう。そしてわれわれ耳鼻咽喉科医が臨床の現場で遭遇することがあるのは,大部分が後者であると思われる。したがって,ここでは「ピアスによる傷害」を表題とし,(狭義の)外傷とは若干異なる事項について述べることとした。
さらに,ピアスによる傷害の病態を理解するにはその背景を知ることも大切であると考え,まず始めにピアスに関する現状について調べた範囲のことを述べ,続いてピアスによる傷害とその対策について記すこととした。
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