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はじめに
Wegener肉芽腫症(WG)は,「上下気道の壊死性肉芽腫性炎症」,「半月体形成性糸球体腎炎」,「血管炎」を3徴とする稀な疾患である。本疾患名は,1936年,当時29歳の病理学者FreidrichWegenerが初めて3剖検例を報告し,1939年に「rhinogene granulomatose」として文献にしたことに基づいている1)。本疾患は極めて多彩な症状を呈する全身疾患であるが,Wegenerの表題にもあるように,鼻壊疽が最も頻度の高い症状であり,その他にも難聴・声門下狭窄・眼球突出など耳鼻咽喉科領域の症状が多く認められることは周知のとおりである2)。本疾患の診断は従来は「生検所見」と「臨床所見」により行われてきた。生検所見の特徴は,研究老により基準に微妙な差はあるが,基本的に1)小動静脈の血管炎,2)巨細胞の出現,3)類上皮細胞肉芽腫,と考えられている。これら2つ以上の所見が揃えば,WGと診断されるが,実際にこの基準を満たす生検標本は25%程度とされている3)。したがって,病理組織所見のみでは診断が難しく,総合的に診断が行われる場合も多い。典型的な症状が揃った場合は診断はそれほど難しくないと思われるが,特に耳鼻咽喉科領域で扱うものの多くはlimited formと呼ばれる非定型的な場合のほうが一般的である。加えて,いわゆる狭義の「進行性鼻壊疽」と呼ばれる,非常に臨床所見の似た腫瘍性の疾患が存在することが2,4),その診断を難しくしていた。WGは長い間その病因は不明であったが,その他の多くの血管炎症候群と同じように病因が自己免疫に求められる傾向になったのは当然の帰結であろう。ガンマグロブリンの高値・約半数にリウマチ因子が認められることなどは,これを間接的に支持するものであった。また,Fauciらによるcyclophosphamide,predonisononeによる治療の成功5)もこれを支持していると言える。しかし,本疾患に特異的な自己抗体の存在は長い間知られていなかった。1985年,WoudeらはWG患者血清中に好中球細胞質に対する自己抗体が出現し,診断および病勢の把握に重要であることを初めて報告した6)。本抗体に関して,その後欧米の多くの施設から追試の報告が相次ぎ,WG診断における重要性に関してはほぼ確立された感がある。加えて,本抗体の亜型(subtype)も報告されるようになり7),これがWG以外の種々の血管炎症候群・炎症性腸疾患などでも出現することがわかるようになると,その報告は急激に増え,最近3年間の文献報告は200以上にものぼる。本論文では,本抗体とWGの関係に焦点を絞って論説する。
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