目でみる耳鼻咽喉科
舌体部先天性瘻孔の1例
丹羽 秀夫
1
,
生井 明浩
1
,
中里 秀史
1
,
池田 稔
1
,
冨田 寛
1
1日本大学医学部耳鼻咽喉科学教室
pp.178-179
発行日 1993年3月20日
Published Date 1993/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411900687
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甲状舌管由来の嚢腫はしぼしば経験され,舌に認められた場合には舌盲孔として舌根部に存在する。しかし,舌体部に存在する先天性瘻孔1)は極めて稀であると思われ,我々の経験した症例をここに報告する。症例は16歳,女性で舌痛を主訴に受診。既往歴および家族歴に特記すべきことはなかった。患者は1990年7月,3日間続く舌痛に嚥下困難も呈してきたため,当科外来を受診。
初診時,舌表面に白苔が付着し,膿汁が認められた。抗生剤投与にて舌体部の炎症所見は5日間で消退した。症状改善後,初診時に気づかれなかった舌正中部に小隆起が認められ,その隆起の中央に瘻孔を認めた。瘻孔の後方には正中菱形舌炎が認められた(図1)。瘻孔には涙管ブジーが,約15mm挿入可能であった。造影検査で造影剤の貯留を認め(矢印)瘻孔の存在を確認した。舌根部方向,すなわち甲状舌管との関連を疑わせる造影所見は認められなかった(図2)。手術時,瘻孔は舌正中を口腔底方向に向かい,盲端に終わっていた(図3)。摘出した瘻孔は約30×5mmであった(図4)。病理組織学的検査にて,重層扁平上皮に覆われ,間質に脂腺(図5),汗腺(図6)の組織が認められる瘻孔の結果を得た。甲状腺組織は認められなかった。本症例の瘻孔発生機序は,舌体の発生に際し,(図7)2)に示されている外側舌隆起に何らかの癒合不全が生じたためと推察される。無対舌隆起の遺残と考えられる正中菱形舌炎の存在もこの推察を支持する所見と思われる。
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