鏡下咡語
癌の告知 私のやりかた
山根 仁
1
1帝京大学市原病院耳鼻咽喉科
pp.164-165
発行日 1991年2月20日
Published Date 1991/2/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411900248
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Yさんは保険外交員をしている中年の女性である。しばらく前から舌縁に潰瘍があり,舌癌ではないかと心配して受診してきた。診ると直径5mmほどの浅い潰瘍だが,一部に堤防状の盛りあがりがあり,わずかな硬結を触れる。生検をしたところ,やはり扁平上皮癌との結果が出た。この程度の早期癌ならどうやっても治りそうだが,Yさんにとって最もよいのは組織内照射であろう。その設備が私の病院にはないので従来こういうケースは癌センターへ紹介している。
Yさんが2度目に外来にやってきたとき,私は「検査の結果,悪性の細胞がみつかりました」と告げた。一瞬息を飲んだYさんは,放心状態となり,「気分が悪いので少し休ませて下さい」と言うなり崩れ落ちてしまった。外来のベッドで2時間ほど横になってもらい,落ち着いたところで「きわめて早期の癌で良好な予後が期待できること。当病院での治療も可能だが,術後の舌の機能を考えると癌センターで組織内照射をするのがよいと思われること」など約30分間説明した。Yさんは「本当に初期の癌なんですね」と不安そうではあったが,紹介状を持って帰って行った。3日後,Yさんは癌センターからの返事を持ってやってきた。「紹介して頂いてありがとうございました」と挨拶もしっかりしており,どうやら立ち直ったようだ。
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