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大方の想像を裏切って大変恐縮だが,この私だって聴覚医学にとても興味をもっているんです。立派に日本オージオロジー学会当時から聴覚医学会の正会員であるし,厚生省特定疾患研究班発足当時の突発性難聴調査研究三宅班の初代疫学分科会長として大活躍(?)したことだってあるんです。はたしてその進歩発展に貢献したか阻害したか(後者であるとの意見が有力)はさておいて,はじめての全国集計作業に大いに興奮し,今でこそよく分かるのだが,こんなにもお忙しい先生方からの返信がたった2-3日遅れたからといっては腹を立て,大教授からたったひとにぎりの症例しか報告がないといってはヤキモキし,世の中の不思議に戸惑った経験だってあるんです。驚くべきことに,JergerやSimmonsの研究施設を訪問したことだってあるんです。もっとも,立派な建物の薄暗い研究室にやたらと難しそうな測定器械が並んでいたのに,はなから圧倒されたのと,そこで立ち働くピチピチ(にみえた)ギャルのラボランチン達がところどころほつれて穴のあいた白衣をカッコよく(と思っているらしくみえた)着流して,かわいらしく無抵抗なラット達の中耳骨包を残酷にいじりまわしながら,10年選手のように自信たっぷりに,スラング混じりの早口で機械のように無機質に,相手の理解力を全く無視して説明してくれる,およそ耳鼻咽喉科学とは関係ないよと言いたくなるような魑魅魍魎の世界に呆れ果て,ついに最後まで向こうのペースから脱却しきれずに,内容については全く見て来なかったことに後で気付いたがすでに遅かった(見惚れて聴いていなかったとする意見もつよい)のです。もしあの時しっかり勉強して来ていたら,いっぱしのオージオロジストを気どり,偉そうに学会で質問の一つもできたであろうにと大変残念です。これが今日でも,聴覚医学にけなげにも興味を持ちながら,無意識のうちに自身を遠ざけてしまっている大きな要因になっているのです。
しかし私は,もう一つのオージオロジーにも大いに興味を持ち,なけなしの財を叩いて(女房に言わせると狂人的に)のめり込んで来たんです。私にはどうしてもストレスでしかあり得ない聴覚医学の勉強ではなく,もちろんもっと人間臭く,しかもはるかに文化の香り高い(聴覚医学会の皆様,どうかお許しを),ストレスを解消する方の音楽的オージオのことなんです。
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