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長い勤務医生活より,開業して早いもので10年を経過した。その当時この地方中都市には耳鼻科開業医は10名であつた(現在12名)。御多聞に洩れず100〜200人の患者である,学生時代に軍需工場に動員されベルトコンベアーに乗つて来る部品のボルトをしめた単純な作業を思い出し,これが本当の医療なのだろうかと。続いて追いかけるようにして割り当てられたのが学校医である。一人に10校位が割当られる,一学期の午後はほとんど身体検査で休診である。それも年に一度だけの検診に行くだけで学校医活動とは程遠いものである。さらに2〜3年経過すると,保険の審査委員と医師会の役員を押し付けられ,益々雑用が多くなつた。したがつて耳鼻科の雑誌は机上に積まれ読むひまがない。学会に出席しても判らない事が増加してくる。したがつて出席してもロビーで旧知と話し合う事が多くなる。どうやら耳鼻科の新知識は開業した時点で止つたような気がする。果してこれでよいのであろうかと悩んでいる今日この頃である。
先日県の学校保健会の総会があつた。その席上郡部の熱心な保健主事から,耳鼻科の検診を何とかしてもらいたい旨の要望があり,教育庁の人から私に返事をするよう指名された。耳鼻科医の不足で都市部の学校でも耳鼻科医が配置されていない実状を説明したが苦しい答弁であつた。先頃から耳鼻科医が少なくなつたとか,なり手がないとか,斜陽化していると云う言葉をよく耳にするようになつた。しかし耳鼻科医の需要は増していると思う,学校医の不足しかり,地方の病院の耳鼻科医の不足,開業医には都市に偏在しておりしかも患者数を多く処理しなくてはならない。大都市で開業の規制している所でも耳鼻科は例外であると聞いている。このように需要の多い耳鼻科に何故志望する人が少ないのであろうか。曰く今の保険制度は内科系優位である。これを学生は敏感に感じとる(耳鼻科の点数は低いと),また曰く耳鼻科の授業時間が少ないために授業時間の多い内科へ外科へ魅力を持つ,また耳鼻科は小さい所を取り扱うので技術習得に時間がかかるのではないかとの危懼などがあげられているようであるが,何とか耳鼻科医を増やすよい方法はないものであろうか。
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