鏡下耳語
屠蘇機嫌のたわごと
西端 驥一
1
1慶応義塾大学
pp.58-59
発行日 1973年1月20日
Published Date 1973/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1492207875
- 有料閲覧
- 文献概要
日中友好のムードに日本は酔いしれているが,果してそれでよいのであろうか。司馬遼太郎氏は今の日本は明治維新以上の大変革期にいると警告している。広大な土地と豊富な資源,7億を超す人口の他に数千年の歴史の試練に耐えてきた中国人の根性。日本人はアジヤの優秀な民族ではあるけれど,ムードに弱く,単純で,性急なわれわれが,粘り強くて複雑な性格の彼らに対抗していけるであろうか。それに毛,周という優れた指導者を持つ彼らの強味は圧倒的である。私の友人の元陸軍中将遠藤三郎氏は,毛沢東一遍倒で,毛氏からも非常に信用されているが,私は時々手紙で議論していた。しかし毛氏の矛盾論には感服した。中国はあらゆる階級をなくすために先ず軍人の階級章をなくしたが,しかし国民各自の議論の違いはなくせないと認め,その間の矛盾を調和させて行くべき道を見つけてゆくと言う。周恩来も偉い。中国のやり方をズケズケと批判した高崎達之助氏や松村謙三氏を反つて信頼した。米帝国主義反撃というポスターの下で,ニクソン大統領とともに閲兵したが,一歩その後方を歩くというエチケットを守つたという。飜つて日本の各層の指導者を見るとなんとそのスケールの小さいことか。
「大同して小異を残す」という言葉も味わいの深いものだ。これに反して日本では全員一致を最上としているが,ユダヤ人はこれを嫌う。それは本来人間の考えは千差万別なのに,全員一致とは全員がどこか冷静を失つているからだという(ペンダサン)。
Copyright © 1973, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.