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画像診断の狙い
反回神経麻痺と輪状披裂関節脱臼の鑑別について,後者に対する特徴的な喉頭内視鏡所見1)に対する観察は重要であるが,それのみでは診断の難しい場合がある。また,反回神経麻痺であるとの確定診断には内喉頭筋への筋電図検査が最も有効であるが,その施行は患者への侵襲も伴ううえ,技術的にも容易ではない。一方,近年の画像再構成技術の進歩により,輪状披裂関節脱臼の画像診断にマルチスライスヘリカルCTや3DCTの有用性2,3)が報告されているが,これらも必ずしも万能の検査とはいえない。例えば,若年者や女性で喉頭軟骨群の石灰化の程度が弱い場合には,輪状披裂関節の細部にわたる描出は難しい。特に,輪状披裂関節の脱臼は,基本的には関節面同士の接触が完全には失われていない亜脱臼の状態であり,脱臼した披裂軟骨の変位が強くない場合には,判定に悩むことも多い。また,斜喉頭をはじめ喉頭軟骨群の生理的な左右差4)がある場合にも,その判別は難しい。声帯運動障害に対するマルチスライスヘリカルCTの撮像は吸気時と,発声もしくは息堪え時の2つの動作時に同期して行い,その撮像時間は2秒程度ではあるが,発声時の喉頭の上下運動が大きい場合や,こちらが意図したとおりの喉頭の構えで息堪えができていないなどの場合では,期待どおりの画像は得られない。何より,喉頭の解剖に精通していない場合には,それの判別に困るであろう。さらに,画像再構成を行うソフトや装置は高価であり,再構成に要する時間や労力もかかるため,多くの医療機関で行える普遍的な検査とはいいにくい。
反回神経麻痺と輪状披裂関節脱臼との最大の違いは,後者では輪状披裂関節面から脱臼し,解放された披裂軟骨上部構造が発声時に外側輪状披裂筋を中心とする内転筋群の収縮により上外方へ倒れ込むように移動し,同時に声帯遊離縁の高さが健側より高位に移動することである1)。この現象は,披裂軟骨が輪状軟骨の前内方へ脱臼する前方脱臼と,後外方へ脱臼する後方脱臼とで共通のものである。したがって,輪状披裂関節脱臼が疑われる場合には,まず,この現象について観察を行うことが有用である。しかし,通常の喉頭内視鏡による声帯の上方からのみの観察では,この現象を確認することは難しい。これに対して,喉頭正面からX線透視を用いて,発声時の声帯辺縁と披裂軟骨上部構造の外上方への変位を観察する方法(図1)は,X線透視装置さえあれば可能な検査であり,全国の多くの医療機関で施行が可能である1)。しかし,声帯自体は軟部組織であり,輪状披裂関節の石灰化が乏しい場合にはCT同様にその判定は難しい。これに対して,バリウムを嚥下させたあとに,発声時に脱臼した披裂軟骨上部構造が上外方に変位する現象を,披裂軟骨外側面とわずかな軟部組織と粘膜とで接する下咽頭梨状陥凹の内側面の運動性として観察する方法が報告されている5,6)。この方法を用いると,直接,披裂軟骨を描出しなくとも,脱臼した披裂軟骨の異常な運動性が容易に描出されうる。本項では,主にこのバリウム嚥下後の発声時の喉頭正面X線透視画像検査について述べる。
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