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Ⅰ はじめに
IgG4関連疾患は,高IgG4血症および組織学的にIgG4陽性形質細胞浸潤を病態基盤とする全身性,慢性炎症性疾患であり,今世紀に入りわが国より提唱された新しい疾患概念である1)。シェーグレン症候群の一亜種あるいは同一の病態としてみなされていたミクリッツ病も,血清学的・病理組織学的特徴から,その疾患独立性が認められ,IgG4関連疾患としてあらためて認識されるに至っている2,3)。本稿では,耳鼻咽喉科医が日常診療において接する機会が多いミクリッツ病を中心に,IgG4関連疾患の診断・治療について概説する。
代表的なIgG4関連疾患であるミクリッツ病は,1888年にJohann von Mikulicz-Radeckiが無痛性の両側性,対称性の涙腺および顎下腺・耳下腺腫脹を伴う症例を報告したことに始まる4)。しかし1953年に病理学的解析からシェーグレン症候群と同一疾患であるとする見解が,著名な病理学者であったMorganとCastlemanによって報告5)されて以来,特に欧米ではミクリッツ病の疾患概念は大きく後退した。しかしわが国では,ミクリッツ病の独立性やシェーグレン症候群との相違についてしばしば議論がなされていた6)。特にIgG4関連疾患としての概念が確立した今日より約20年前に,今野ら7,8)によって詳細な臨床的・血清学的検討がなされ,ミクリッツ病の疾患独立性が耳鼻咽喉科領域よりすでに示されていたことは,特筆すべきことである。
21世紀に入りYamamotoら2,3)はシェーグレン症候群と診断されていた症例の中からミクリッツ病と考えられる一群を見出し,これらの症例群が自己免疫性膵炎などとともに,著明な高IgG4血症および罹患臓器へのIgG4陽性形質細胞浸潤を認めることを示し,IgG4関連疾患としてミクリッツ病の疾患独立性が提唱されるに至っている。炎症性偽腫瘍として位置づけられていたキュットナー腫瘍(慢性硬化性唾液腺炎)も,今日ではこうしたIgG4関連疾患に含まれると考えられている9~11)。
著明な高IgG4血症と病変部へのIgG4陽性細胞浸潤を呈する免疫学的特徴は,自己免疫性膵炎12)において報告されて以来,同様の所見が硬化性胆管炎13),後腹膜線維症14),間質性腎炎15),下垂体炎16)など多数の臓器で報告された。その結果,日本国内だけでもIgG4-related sclerosing disease17),Systemic IgG4 plasmacytic syndrome(SIPS)18),IgG4-related multiorgan lymphoproliferative syndrome(IgG4+ MOLPS)19)など,同一と考えられる疾患群に対して複数の異なる疾患名が提唱され,使用されていた。そこで厚生労働省研究班を中心に,2010年にIgG4関連疾患(IgG4-related disease:IgG4RD)という名称に統一された。
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