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Ⅰ.ゲノムと薬剤
個人によって薬剤の効果が異なること,あるいは副作用の出方が異なることは以前から経験上よく知られていた。近年ヒトゲノムの解明が進み,このような薬物応答性の違いの要因の1つに遺伝的素因(種々の遺伝子の多型)があることが次第に明らかになってきた。医薬品の有効性をゲノムの面から研究する分野,すなわち遺伝子情報に基づいて医薬品の選択と投与量設定などを行おうというのがファーマコジェノミクス(pharmacogenomics,薬理ゲノム学)と呼ばれる研究分野で個別化の医療として注目されている。一方,薬剤の副作用が生じる原因を遺伝子レベルで調べる研究はトキシコゲノミクス(toxicogenomics)と呼ばれ,遺伝子レベルでの毒性予測が可能であることから同様に医療の個別化に関連して注目されている。薬剤に対してあらかじめ有効性の高い患者を前もって選別し,副作用を回避することができれば,無駄のないより効率的でより安全な薬物治療が可能となる。すでに抗癌剤を中心に臨床でも遺伝子情報を投薬につなげるファーマコジェノミクスの実用化拡大が進んでいる。肺癌の治療薬であるゲフィニチブ(商品名:イレッサ)の有効性を調べる検査としてすでにEGFR(上皮細胞成長因子受容体)遺伝子検査が実用化されている。また大腸癌の第一選択薬となっているイリノテカン(商品名:カンプト注,トポテシン)については解毒酵素UGT1A1遺伝子のプロモータに存在する繰り返し配列の多型をもった患者は代謝速度が遅いため,投薬量を低減しないと副作用が強く出ることが明らかになっており遺伝子型を判別して副作用の回避目的に利用が開始されている。将来的には種々の薬剤に関してこのような薬物治療の個別化が一般的になっていくことが期待されている。
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