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Ⅰ はじめに
加齢により喉頭の軟骨や関節に解剖学的変化が起こる1~4)。喉頭筋では筋線維の萎縮や数が減少する1,2,3,5,6)。声帯粘膜ではlamina propiaが疎になり7,8),声帯靭帯では膠原線維の減少による薄層化が起こる9,10)。このような喉頭の生理的,解剖学的年齢変化が発声機能に影響を及ぼすことが知られている1,4,11,12,)。
加齢による声の高さの変化についてはさまざまな報告がある。男性を対象にした研究では,Brownら13)は若年者群,中年群,そして65~85歳の老年者群に対して,文章朗読時の話声位(speaking fundamental frequency:SFF)を比較した。老年群は他の群に比較して有意に上昇したと報告している。Mysak14),Hollienら15),Honjoら16)の報告でも文章朗読時のSFFは老年群で上昇した。一方,SFFが低下するという報告もある17,18)。Endresら18)は数人の男性を14~19年経過を追って声の高さを測定したところ,全例で低下したと報告している。また,声の高さは変化しないという報告もある。Benjamin19)は若年者,老年者各10人を比較検討した。男性老年者では軽度低下したが有意差はなかった。Higginsら20)の報告でも同様の結果であった。
女性においても声の高さの変化の検討が行われている。Benjamin19),Bieverら21)の研究では,若年者と60歳以上の健常者に母音を持続発声させ声の高さを比較したが有意差はなかった。McGloneら22)は,79歳前と80歳以降の老年者を比較し,文章朗読時のSFFには差がなかったと報告している。一方,Brownら13)の報告では女性老年群は若年群に比較してSFFが有意に低下した。Higginsら20)の研究でも老年女性では声の高さが低下した。このように声の高さに関する研究では男女ともに報告者による違いがある。
声の大きさの老年変化についても報告がある。老年者では音圧(sound pressure level:SPL)が上昇するという報告23),低下するという報告24),あるいは変化しない21,25)という異なった結果が報告されている。平均呼気流率(mean flow rate:MFR)についても若年者と老年者で比較検討が行われている21,26,27)。彼らの報告ではMFRは両者間で差はなかった。
呼気は喉頭における音声生成のエネルギー源であり,発声動態を考えるうえで空気力学的評価は重要である。van den Berg28)は声門下パワーに対する声門上音響パワーの比を喉頭効率と定義した。声門下パワーはMFRと声門下圧の積で計算される。MFRの測定は比較的容易であるが,声門下圧の測定は被験者への侵襲が大きい。そこで声門下圧の代わりに口腔内圧を測定し,声門下圧を算出する方法が考えられた29,30)。口腔内圧は肺胞内圧の測定のために開発された気流阻止法を用いて測定することができる29,31,32)。気流阻止法で測定される口腔内圧は発声時の肺胞内圧と一致するために呼気圧(expiratory lung pressure:EP)と呼ばれている。EPは声門下圧より高く,MFRが数百ml/秒以内であれば声門下圧と一定の関係にある32)。MFRがそれ以上になると下気道の空気抵抗が増加するために,EPと声門下圧の差が拡大する。したがって,EPはある条件内では声門下圧の代用パラメータとしての意味をもつ。EPは発声時の呼気努力を反映するパラメータでもある。声門抵抗が低い,または高い場合は発声時に強い呼気努力が必要になり,発声困難の原因となる。呼気圧の測定はこの動態を客観的に評価することができる33)。このようにEPは声門下圧の代用という意味以外に,呼気努力を評価する際に重要な意義をもつパラメータである。このシステムは永嶋医科より発声機能検査装置PS77Eとして販売されている。
われわれの音声外来では1988年よりPS77Eを用いて多くの音声障害患者の検査を行い,その臨床的意義を検証してきた34,35)。加齢変化は呼吸機能にも起こる1,36~39)。発声時の呼気努力を直接に反映するパラメータであるEPを測定するPS77Eは,加齢による発声機能評価に適している。
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