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Ⅰ はじめに―音声言語コミュニケーションにおける感覚器in-putとout-put
1.感覚器のout-put機能
感覚器医学という言葉を聴き,あるいは視て,多くの人々は視・聴覚や嗅覚・味覚・知覚などの知覚を連想するであろう。しかしながら,これらはあくまで感覚器受容体としてのin-put処理機構である。
われわれ人間の特徴である『ことば(音声言語)』は聴覚を介し,さらにしぐさ・表情など視覚情報として修復されin-put情報として脳に入力,統合・分析される。次いで脳から指令となって感覚器のout-putである音声言語器官に伝達され,発声として表現されて,円滑な音声言語コミュニケーションが成立する。
2.加齢と感覚器out-put
聴覚における難聴や視覚における白内障など感覚器in-put受容器と同様に,感覚器out-putも生理的加齢による機能障害をきたす。加齢による声帯の変化はその筋肉,結合組織,粘膜のすべてに萎縮が起こる。このうち,筋肉と粘膜の間にある結合組織であるラインケスペースの萎縮・瘢痕の治療が最も苦慮されている。病名でいうところの声帯溝症や声帯瘢痕がこれに当たる。この病態では水道におけるゴムパッキングの劣化と同様の萎縮,つまり声門閉鎖不全が起こり加齢による音声のout-put障害である音声障害,嚥下障害,さらに息こらえができずに身体能力の低下をきたす。これまでの研究成果により,声帯の隆起性病変に対する治療法は確立されたが,この声帯の萎縮性病変の治療法はこれまで確立をみていなかった。
3.加齢による感覚器のout-putの問題点と対策
われわれは感覚器out-putとしての音声言語医学研究の重要性を鑑み,これまでの先達の研究と自身の基礎・臨床研究を生かし,声帯溝症や声帯瘢痕に対する新しい治療法を試みている。
本稿では感覚器out-putの生理的加齢変化の代表的疾患モデルである声帯の『瘢痕病変』と『声帯溝症』に対し,1997年に開発して1)その後,世界的に広く追試され声帯の再生術式として評価を得,2003年には北里大学の申請で高度先進医療にも認定された『声帯内自家側頭筋筋膜移植術』(autologous transplantation of fascia into the vocal fold:ATFV)の開発の経緯,実際,長期成績,組織学的検討を,世界の音声外科の歴史・現況とともに紹介し,その応用や声帯の再生医療としての今後の研究・臨床の発展性を含めてここに発表する。本稿が耳鼻咽喉科臨床家諸氏に広く理解とさらなる普及をせしめ,高齢化社会日本における国民生活のQOL向上に役立たせんことを祈るものである。
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