- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
I.はじめに
耳科臨床で日常的に行われている聴覚検査の多くは,純音や語音など様々な音響刺激に対する被検者自身の自覚的判断を検者に合図することによって行われる聴覚心理的な自覚的聴覚検査である。このように,被検者の自発的応答に依存する自覚的聴覚検査では聴覚機能を正確に評価することが困難な場合も少なくない。被検者によっては,検査音が聞こえても検者に合図ができない場合や故意に合図をしない場合もある。このような被検者に対しては,被検者の自発的な応答によらない客観的な手段で聴覚機能を検査する必要があり,このために考案された検査法が他覚的聴覚検査法である。他覚的聴覚検査法は音響刺激により,聴覚伝導路およびその反射路に生じる何らかの誘発反応を検出するものであり,他覚的な聴覚レベル測定のみならず,反応の誘発経路の異常を検出する神経学的検査法としても臨床応用されている。
他覚的聴覚検査法として現在臨床において汎用されているものに聴性脳幹反応(auditory brainstem response:ABR)があるが,これは検査音により聴覚神経伝導路に生じる聴性電気反応を検出する検査法である。ABRは再現性に優れ,睡眠下でも安定した反応が得られるなど多くの利点を有する検査法であるが,電気反応であるためシールドルームで検査をする必要があることや,周波数別の聴覚評価にやや難があるなどの問題点もある。一方,耳音響放射検査(otoacoustic emission:OAE)は最も新しい他覚的聴覚検査法であり,検査音により内耳(蝸牛)に生じる聴性音響反応を測定する検査法である。これら他覚的聴覚検査法は最近では新生児聴覚スクリーニング検査に用いられるなど,その応用範囲は拡大している。
Copyright © 2003, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.