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Ⅰ はじめに
1.反回神経麻痺治療の現状と目指すべきもの
現在行われている片側性反回神経麻痺に対する治療は,甲状軟骨形成術や声帯内注入術などの手術療法が中心となっている。しかし,これらの手術は声帯位を静的に矯正するのみであり,麻痺声帯の運動の回復を期待して行われているわけではなく,その結果も必ずしも満足のいくものではない。また,両側麻痺に至っては気道と音声の両立は不可能で,患者に気管切開を閉じたいのか,音声を良くしたいかの二者択一を迫らなければならない。唯一,動的回復を目的としている神経縫合や移植などの神経支配回復手術は,声帯運動回復の点ではほとんど無効である。したがって,今後新しい反回神経麻痺治療の開発に当たっては,反回神経麻痺を運動神経麻痺として神経学的にとらえて,声帯運動の回復を目指す研究が必要であると考えられる。
本稿では,麻痺声帯の再運動化を目指して行っているわれわれの基礎研究である反回神経麻痺に対する遺伝子治療の応用について述べる。これに加えて,反回神経麻痺に対する新しい薬物療法の開発についても触れる。
2.声帯運動回復のために解決すべき神経学的問題
まず,麻痺声帯の再運動化のために解決すべき神経学的問題について述べる。これらの問題解決は遺伝子治療の研究においても,新しい薬物療法の開発の研究においても,共通の目標である。
脱神経に伴う神経学的問題点を以下に箇条書きで示す(図1)が,反回神経損傷による神経損傷により,
(1)疑核における運動神経細胞死
(2)神経線維や運動終板の変性や再生不良
(3)喉頭筋の萎縮
が起き,反回神経の運動神経機構としての再生への大きな障害になり,これらの問題の解決が是非とも必要である。さらに,反回神経をうまく再生させても,非選択的神経再生が生じてしまうと,
(4)神経再生後の過誤支配
により,本来支配すべきでない神経細胞が別の喉頭筋を支配し,神経支配が再確立されても合目的運動機能が回復しないという問題が生じる。
今までこれらの問題は既知ではあったが,決定的な治療法が存在しなかった。しかし,近年の神経科学の発展により,さまざまな神経栄養因子が発見され,運動神経筋機構(運動神経細胞,運動神経線維,運動終板,筋組織など)に対する強力な栄養作用により再生促進効果や傷害からの保護効果が証明されてきた1)。それらにはNGF(nerve growth factor),BDNF(brain derived neurotrophic factor),GDNF(glial cell-line-derived neurotrophic factor),FGF(fibroblast growth factor),CNTF(ciliary neurotrophic factor),IGF-Ⅰ(insulin-like growth factorⅠ)などがあるが,これらの神経栄養因子の反回神経麻痺治療への応用が期待される。
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